2020 Fiscal Year Annual Research Report
メタバーコーディング技術による吸虫・巻貝の種多様性解析と病原性吸虫症疫学への応用
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20J01329
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾針 由真 北海道大学, 獣医学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 吸虫 / 巻貝 / メタバーコーディング / ミトゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、巻貝に寄生した吸虫を網羅的に検出する遺伝子解析手法を確立して、吸虫類感染症流行地に特異的な吸虫および巻貝の多様性モデルを提唱することを目的としている。 遺伝子解析手法として本研究では、巻貝から検出された吸虫のミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)全体を網羅的に増幅および解読することで、複数種の吸虫が感染している場合でも分子学的に種判別可能な手法の開発を目標としている。本年度は、吸虫の幅広い分類群でミトゲノムを増幅可能なロングレンジPCR法の開発に取り組んだ。まずデータベースに登録されている吸虫全種のミトゲノム用いて7~9 kbpほどの領域を増幅可能なプライマー領域を探索・設計した。その有効性は6属6種の吸虫について確認しており、全ての吸虫で増幅産物が得られ、MiSeqを用いて塩基配列を解読した結果、データベースの近縁種と類似した配列が得られていたことから、このプライマーセットは吸虫のミトゲノムを網羅的に増幅可能なロングレンジPCR法のユニバーサルプライマーとして有用であると考えられる。 また吸虫類感染症流行地と非流行地のモデルとなる地域の選定のため、北海道内における巻貝および魚類における吸虫感染状況調査を行なった。まず吸虫への感染率が高い巻貝個体群を見つけるため、モノアラガイにおける吸虫感染を調査した。本年度は、7地点においてモノアラガイを採集することができ、6属8種の吸虫が検出された。このうち2属について、モノアラガイの次の宿主となる淡水棲魚類を採集し吸虫感染を検査した結果、それぞれの魚種から両属のメタセルカリアが検出された。このことから、同調査地においてこれら吸虫の生活環が成立しており、モノアラガイの吸虫感染動態を調査するのに適した環境だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は巻貝から検出された吸虫のミトゲノムを網羅的に増幅および解読する手法の開発および吸虫類感染症流行地と非流行地のモデルとなる地域の選定を行なった。 まず鎖置換型DNA合成酵素であるPhi29を用いた吸虫のミトゲノム選択的増幅法の確立を試みた。データベースに登録されている吸虫全種のミトゲノム塩基配列をダウンロードして、専用プログラムSWGAを用いて各配列に共通した8~15 bpほどの塩基配列を探索した。その結果4~9領域ほどの共通配列領域が選択されたものの、領域間の距離が非常に近く増幅方向が向い合せであることから、ミトゲノム全長を連鎖的に増幅させることが難しいと考えられた。そこで代替案として次に、吸虫の幅広い分類群でミトゲノムを増幅可能なロングレンジPCR法の開発に取り組んだ。ダウンロードした吸虫のミトゲノムを用いて既存のプライマーと併用可能なプライマー領域を探索・設計した。現在、既存のプライマーと併用してミトゲノムの約半分ほどの領域を増幅可能なプライマーを設計済みである。その有効性は6属8種の吸虫について確認済みである。 また本年度は本州で淡水棲カニを採集して肺吸虫のメタセルカリアの感染を検査する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行を受け、北海道内における巻貝および魚類における吸虫感染状況調査を行なった。モノアラガイにおける吸虫感染を調査した結果、7地点において6属8種の吸虫が検出された。またこのうち2属に着目し、陽性モノアラガイが得られた1地点において、それぞれの宿主となる魚種からメタセルカリアを検出した。そこで次に魚類における両属吸虫感染状況を調査し、現在寄生率は高いが寄生強度が低い地点(非流行地)を2地点、寄生率および寄生強度が高い地点(流行地)を2地点選定することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、吸虫の幅広い分類群でミトゲノムを増幅可能なロングレンジPCR法の開発に取り組んだ。その結果、既存のプライマーと併用してミトゲノムの約半分ほどの領域を増幅可能なプライマーを設計し、その有効性を6属6種の吸虫で確認した。今後は、他属の吸虫についても幅広い分類群で有効性を確認する予定である。また当該プライマーによって増幅されていない残りの領域についても、増幅可能なプライマーを設計する予定である。本年度は通常のオリゴDNAによるプライマーを設計したが、広い分類群について共通する塩基配列が少ないことから、イノシンやオリゴDNAに人工核酸であるPeptide nucleic acidを混ぜたプライマーの設計を検討している。これにより、共通する配列部の結合力を高く、また共通しない部分の結合力に依存しないプライマーを設計できると考えている。さらに宿主となるモノアラガイのミトゲノムについても、ロングレンジPCR法を開発する予定である。 また吸虫類感染症流行地と非流行地のモデルとなる地域の選定のため、本年度は2属の吸虫を対象としてその宿主となる淡水棲魚類の吸虫感染状況を調査することで、魚類への吸虫寄生率および寄生強度が低い地点と高い地点を選定し、吸虫類感染症流行地と非流行地のモデルとなる地域とみなすこととした。現在、寄生率は高いが寄生強度が低い地点(非流行地)を2地点、寄生率および寄生強度が高い地点(流行地)を2地点選定することができている。このうち1地点は、前述の陽性モノアラガイおよび魚類が採集された地点であり、月1回の定期サンプリングを実施中である。次年度は、モノアラガイに寄生した吸虫のミトゲノムを解析し、両属の寄生率を流行地および非流行地で比較する予定である。
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