2021 Fiscal Year Annual Research Report
近世における寺社縁起(由緒)・僧伝の形成ー寺社の蔵書の蓄積と開示を背景にー
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20J01491
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
向村 九音 茨城大学, 人文社会科学部, 特別研究員(PD) (80861658)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 今出河一友 / 寺社縁起 / 由緒 / 大和国 / 石上神宮 / 持聖院 / 補陀落山惣持寺 / 遍照山西福寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度前期には拙著刊行のための最終確認を行い、後期には拙著刊行を通して見出した新たな課題に取り組み、一層の研究の進展を図った。 【1.拙著刊行のための最終確認】本年度前期には、拙著『創られた由緒―近世大和国諸社と在地神道家』刊行に向けて、念々校などの最終確認を行った。また、校正を行っていく中で、今後追究していくべき複数の課題を見出した。 【2.遍照山西福寺(京都府綴喜郡)所蔵の縁起・神道書の翻刻・解題作成】本年度前期には、伊藤聡編『寺院文献資料学の新展開 第十巻 神道資料の調査と研究Ⅰ』所載の翻刻資料二点(『摩尼遍照山西福教寺来縁巻』、『御流神道口決』)を仕上げ、『摩尼遍照山西福教寺来縁巻』解題のための下書きを作成した。椿井文書の一つである当縁起への検討は、俯瞰的に大和国周辺の縁起生成(偽作)の動きを考えるための資となった。 【3.拙著刊行時に見出した課題の追究】本年度後期には、拙著刊行の段階で見出した課題の一つである「石上神宮若宮の祭祀説の変遷」の問題に取り組んだ。国文学研究資料館・国立国会図書館東京本館で調査を行い、複数の縁起・文書を比較することで、近世に石上神宮若宮が延喜式内社出雲建雄神社に比定されていく過程を明らかにした。本成果については研究会報告を済ませ、論文化しつつある。 【4.大和国の寺社縁起研究に関する新規展開】本年度後期には、従来、研究の対象としてきた近世中期から遡って、近世前期における大和国の神社の由緒生成の営みについて押さえるため、『元要記』の原本調査・撮影を開始した。現在、率川神社・漢国神社・氷室神社条を中心に、諸本の翻刻を順次行っている。また、奈良女子大学学術情報センターHP「電子画像集」上に公開するための『和州平群郡補陀落山惣持寺縁起』の翻刻・現代語訳を作成した。さらに、当縁起に関しては、令和4年度に論考をまとめるため、先行研究や周辺資料の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時には「今出河一友周辺人物に関する典籍を調査することで、江戸時代中期に南都の神職や神道家がどのような典籍を享受・述作していたか、解明する」ことを目標に掲げ、具体的には、石崎文庫の蔵書の内、垂加神道関連典籍の簡易目録を作詞することなどを計画していたが、拙著刊行を通し、具体的な実施計画に軌道修正を加え、一友と関わりのあった石上神宮神職が享受していた典籍、ならびに、文書作成などに採用した説などを明らかにした。(上記「研究実績の概要」(1)(3)に該当) 今出河一友と時代的に近い『元要記』、『和州平群郡補陀落山惣持寺縁起』、椿井文書などへの検討も進められており、一友のみならず、大和国の寺社縁起の生成・変遷を俯瞰的に捉えることも出来つつある。(上記「研究実績の概要」(2)(4)に該当) なお、申請時に予定していたカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)における栂尾コレクションの調査は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、中止となった。本調査の目的は、海外に流出した寺院資料をもとに覚城院(香川県三豊市)の信仰・由緒について考えることにあったが、代替として、善通寺などの周辺寺院の聖教調査を行うことで、真言宗の一派である新安流の初期の展開について追究している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2022年度には、今出河一友の活動を研究対象の中心にしつつも、縦の軸(時代的な展開)と横の軸(一友以外の南都の神職・神道家らの活動)から、大和国の神社縁起がいかに生成・改変されていたかを捉える。 まず、縦の軸に関しては、今出河一友の述作した縁起が、近代にいかなる影響を及ぼしたかを明らかにする。これまでの研究では、今出河一友の述作した縁起が同時代(近世中期)・近世後期にいかに享受されたかという点にまでしか、考察を及ぼせていなかった。今年度は近代にいかに取り扱われたかという点を追究し、一友の述作がいかに神社や地域の“歴史”を創出していったかという点について、考察を深める。具体的には、率川神社(いさがわじんじゃ。奈良市本子守町)の由緒を取り上げた論文を発表する予定である。 次に、横の軸に関しては、一友と同時代の南都の神職・神道家らがどのように蔵書を共有し、コミュニティを形成していたかという問題に取り組む。これを通して、神社の由緒を述作する上での「南都の特殊性」について考察を及ぼす。
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Research Products
(3 results)