2020 Fiscal Year Annual Research Report
腸内細菌によるミツバチ脳機能の制御機構の解明および飼育保全への応用
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20J01550
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
末次 翔太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | セイヨウミツバチ / 腸内細菌叢 / 脳腸相関 / 感覚応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、動物の脳機能が腸内に存在する細菌集団(腸内細菌叢)の影響を受けることが明らかになりつつある。しかし「いかなる腸内細菌の種類や組み合わせが、動物のいかなる分子基盤を通じて、いかなる脳機能に影響するのか」は完全には明らかでない。本研究は、主要な腸内細菌の数が10種類程度と少なく、それらの培養技術が確立されているセイヨウミツバチ(ミツバチ)を研究モデルとし、上記の課題にアプローチする。さらに、得られた知見を活用し、農薬使用下でのミツバチの飼育保全を試みる。 2020年度にはその端緒として、単純な脳機能である味覚応答能力に対する腸内細菌の影響を試験した。巣から採集したミツバチの蛹を無菌条件下で羽化させて「無菌ミツバチ」を得た後、成虫の腸から抽出した天然の腸内細菌叢を経口投与し「腸内細菌叢移植ミツバチ」を作出した。このミツバチの応答する砂糖水の濃度を調査したところ、腸内細菌叢移植ミツバチは無菌ミツバチ(対照群)と比べ、薄い砂糖水にも応答する傾向が見られた。このことは、腸内細菌の存在によりミツバチが速く空腹になることや、味覚がより鋭敏になることを示唆する。ミツバチのごく単純な脳機能に腸内細菌が影響することを示唆する重要な結果であり、ミツバチに固有の社会行動にも腸内細菌が影響すると期待される。現在、ミツバチ腸内細菌叢において特に主要な5種の細菌が味覚応答に関わるかどうか調査するため、これらの細菌のみ保有する「人工編成ミツバチ」を作出し同様の実験を実施している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はCOVID-19の感染防止を目的として研究機関により就業人数が制限された結果、実験操作のための時間が確保できない状況が続き、十分な実験サンプルを確保することができなかった。 本年度に実施できた味覚応答能力の試験では、腸内細菌叢移植ミツバチが対照群である無菌ミツバチよりも高い応答性を示し、腸内細菌の存在が味覚応答を促す可能性を見出した。次に試験した人工編成ミツバチも、期待通り、腸内細菌叢移植ミツバチと同程度の味覚応答能力を示した。しかし、この実験では期待に反して無菌ミツバチも高い応答性を示したため、処理群の間で違いが見出されなかった。実験回ごとに対照群の応答性が異なっていたことは、実験系が有効に機能していないことを意味する。そのため現在、実験サンプルの作製や行動実験の条件の再検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度以降には、味覚応答能力試験(2020年度からの継続)と、より高度な脳機能を要する社会行動に対する腸内細菌叢の影響を試験する。当初の計画では社会行動として採餌行動に着目していたが、2020年度の研究の遅れを鑑み、より短期的に試験できる育児行動を解析する計画である。続いて、腸内細菌の存在により脳機能のいかなる分子基盤が影響を受けたかを解明するため、行動変化を示した人工編成ミツバチのうち、最も単純な組み合わせの細菌を持つ個体を対象に、脳における遺伝子発現プロファイルをトランスクリプトーム解析により網羅的に同定する。その後、無菌ミツバチと比較して人工編成ミツバチ特異的に高発現した遺伝子を対象としてRNA干渉と行動実験を実施し、対象遺伝子と行動の関係を明らかにする。 以上が達成された後に、農薬を用いて人工編成ミツバチの腸内細菌叢を人為的に破壊し、さらに、腸内細菌接種による細菌叢と脳機能の回復試験を実施する予定である。ここでも、脳機能を調査する際には短期的に解析可能な行動を対象にする方針である。
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