2021 Fiscal Year Annual Research Report
腸内細菌によるミツバチ脳機能の制御機構の解明および飼育保全への応用
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20J01550
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
末次 翔太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | ミツバチ / 腸内細菌叢 / 脳腸相関 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、動物の脳機能が腸内細菌に影響されることが明らかになりつつある。しかし、いかなる腸内細菌の組み合わせがいかなる脳機能を制御するかは十分に分かっていない。本研究は、腸内細菌の組み合わせを操作した「人工編成動物」を作出できるミツバチを研究対象として、「ミツバチの腸内細菌叢に優占する5種の腸内細菌のいかなる組み合わせが、ミツバチのいかなる行動能力に影響するか」、そして「いかなる脳分子基盤がその行動変化をもたらすか」を解明することを目的としている。 2021年度には、腸内細菌叢の存在がミツバチの感覚応答能力に影響するかを明らかにするため、砂糖水に対する人工編成個体の味覚応答能力を調査した。具体的には、ミツバチが満腹になるまで餌を与えた後、2時間餌を与えないで静置してから、砂糖水に対するミツバチの応答回数を測定した。その結果、人工編成群と無菌群(対照群)の両方で応答回数が少なく、実験群間の差は見られなかった。 次に、人工編成個体が適切に作出できたか否かを定量的に調べるため、行動実験後にミツバチの腸から抽出したDNAを用いて腸内細菌の16S rRNA遺伝子の定量的PCRを実施した。その結果、5種の細菌は全ての人工編成個体から検出された。その一方で、無菌個体ではいずれの細菌も検出限界に届かなかったため、人工編成個体と無菌個体が適切に作出されたことが分かった。しかし、人工編成個体の腸内細菌叢における各種腸内細菌の割合は野外のミツバチで見られる値と大きく異なっており、人工編成個体の腸内細菌叢が野外のミツバチの腸内細菌叢を再現していないと考えられた。 行動実験が完了した後には、脳遺伝子発現プロファイルに対する腸内細菌の組み合わせの影響を検証する計画である。その準備として、人工編成個体の脳からのRNA抽出法を整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度には、ミツバチの味覚応答能力に対する腸内細菌の存在の影響を調査した。この実験では、ミツバチが満腹になるまで餌を与えた後に数時間飢餓にさらすことで、ミツバチの空腹の度合いをコントロールして実験を行う。2020年度と2021年度で行動実験前の飢餓時間を変更した(2020年度; 半日以上、2021年度; 2時間)ところ、どちらの解析においても人工編成群と無菌群の応答能力は同程度だった。しかし、2020年度には両実験群の応答回数が多かった一方で、2021年度には両実験群の応答回数は少なかった。このことは、飢餓にさらす時間を2時間~半日の間に設定すると、実験群間で応答が異なる可能性を示唆している。実験群間で味覚応答能力の差を見出すためには、適切な飢餓時間を設ける必要があると思われる。 16S rRNAのqPCR解析からは、人工編成群が腸内細菌を保有する一方で無菌群は腸内細菌を保有しないことが明らかになった。これは実験手法の適切さを示す重要な結果である。しかし、各細菌種が腸内細菌叢に占める割合は野外のミツバチの腸内細菌叢における割合と大きく異なっていた。人工編成個体を作出する際、各種細菌のストック溶液の濁度を統一することで投与する菌体量を統一していたことを考えると、濁度が菌体量を正確に反映していないことが腸内細菌叢の構成に影響した可能性がある。適切な方法で腸内細菌の量を統一する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の結果を受けて、2022年度にはストックに含まれる細菌の量をCFUに基づいてより正確に推定し、細菌種間でCFUを統一してミツバチに投与する。当面、5種の腸内細菌をすべて持つ人工編成個体を用いて、無菌個体との行動能力の違いを検証する。味覚応答実験ではミツバチを飢餓にさらす時間をさらに調整し、人工編成群と無菌群のどちらかがより多く応答するような時間条件を探索する。次に、人工編成個体の腸内細菌叢が野外のミツバチの腸内細菌叢の構造を再現しているかを調べるため各種細菌の16S rRNA遺伝子をqPCRで定量解析する。また腸内細菌叢の存在が脳機能の分子基盤に影響するかどうか調べるために、人工編成個体の脳から抽出したRNAを用いて遺伝子発現プロファイルを解析する。さらに、育児行動に対する腸内細菌の影響を検証するための観察系を新たに構築し、人工編成個体と無菌個体の育児行動を観察によって比較する。
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