2020 Fiscal Year Annual Research Report
葉化果実トマト系統を用いた色素体分化制御機構の研究
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20J01560
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
江面 健太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 転写因子 / シグナル伝達 / 遺伝子発現 / 果実 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに“葉化果実”トマト系統ではコサプレッションによって3つのBELL転写因子が発現抑制されていることを確認していた。そこで、3つのBELL転写因子をゲノム編集で個別にノックアウトした系統を解析し、“葉化果実”の形成との関係を検証した。その結果、SlBLH7のノックアウトによって“葉化果実”トマト系統と一部類似した若齢果実の緑化が引き起こされることが確認された。 次に、BELL転写因子と共同で果実発達に関する遺伝子群の転写制御をする相互作用因子を探索した。果実での発現データを用いた共発現解析から候補因子を選抜し、転写因子をコードする遺伝子BIF1(BELL-INTERACTING FACTOR1)に着目してさらに解析を進めた。まず、“葉化果実”トマト系統で発現が抑制されているBELL転写因子とBIF1の物理的相互作用を、酵母two-hybrid法、タバコを用いたCo-IP実験およびナズナの葉肉細胞由来プロトプラストでのトランジェントアッセイ系(in planta two-hybrid法)を用いた実験により解析した。その結果、SlBLH7を含む3つのBELL転写因子とBIF1の相互作用が確認された。果実発達におけるBIF1の役割を検証するため、ゲノム編集によりノックアウト系統を作出した。果実形質の解析から、BIF1のノックアウトでも同様に若齢果実の緑化が引き起こされることが確認された。さらに、RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析から、BIF1は組織の緑化に関わる遺伝子群の発現を果実で抑制する役割を担うことが支持された。 以上の結果は、BELL転写因子とBIF1を介した果実の”葉化”抑制機構の存在を示唆しており、さらに解析を進めることで果実における色素体の発達制御において新たな知見を与えるものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、“葉化果実”トマト系統の表現型に寄与するBELL転写因子を明らかにすること、当該転写因子と共同で機能する相互作用因子を同定することを中心に取り組んだ。前者に関しては候補である3つのBELL転写因子のノックアウト系統の解析からSlBLH7 が中心的な役割を担うことを見出すことができた。後者に関しては共発現解析、酵母ツーハイブリッド法、Co-IP実験、プロトプラストでのトランジェントアッセイ実験等を用いた解析により、SlBLH7と相互作用する転写因子BIF1をあらたに同定することができた。さらに、ゲノム編集により作出したBIF1のノックアウト変異体を詳細に評価したところ、“葉化果実”トマト系統と一部共通した果実形質を示すことを確認できた。 一方で、転写制御メカニズムのトマト果実由来のプロトプラストを用いたトランジェントアッセイ系の確立に取り組んだが、現在のところ高効率な実験条件の確立には至っていない。しかし、ナズナプロトプラストを用いた実験系を改良することで、転写制御メカニズムについて十分検証できる状況になっている。 以上を踏まえ、本研究はおおむね順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、BELL転写因子とBIF1にエピトープタグをそれぞれ融合し発現させた形質転換体の作出を進めており、ChIP-seq解析などを用いてBELL転写因子とSlKN5が制御する下流遺伝子を同定する。“葉化果実”トマト系統はSlBLH7やBIF1のノックアウト系統と比べてより多面的な果実形質の変化が観察されるため、機能冗長や他のBELL相互作用因子の関与の可能性も考えられる。そこで、これまでに作出した変異体を交配して多重変異体を獲得し果実形質を評価するとともに、新規の相互作用因子の探索も引き続き進めていく。また、果実着色や色素体数の調節に関与する既知因子との制御関係についても、これまでに所得したトランスクリプトームデータを中心とした解析から明らかにしていく。また、トマト果実での転写制御メカニズムの検証に適用することを目的に、トマト果実由来のプロトプラストを用いたトランジェントアッセイ系の確立に引き続き取り組む。
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