2020 Fiscal Year Annual Research Report
経時的に変化する神経活動を分子発現へと変換する転写調節機構
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20J01576
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊原 尚樹 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 神経回路形成 / 遺伝子発現 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
嗅覚系では、発現する嗅覚受容体の種類に規定された神経活動のパターンが複数の軸索選別分子の発現量を制御し、嗅覚受容体特異的な回路構築を可能としている。また、神経活動に伴う細胞内カルシウム濃度の変化は細胞内で様々な転写調節因子の活性化を促し、下流に存在する遺伝子の発現を制御する (Gallin WJ and Greenberg ME., Curr Opin Neurobiol., 1995)。神経活動パターンと遺伝子発現をつなぐ分子モデルとして、神経活動の下流に存在する転写調節因子がそれぞれ固有のカルシウム結合能・親和性をもち、特定の神経活動パターンのみに対して活性化することで上述のような活動パターンのデコーディングを可能としていると考えた。 本年度は、まず軸索選別分子の発現制御に関わる転写調節因子の同定を目的として、CRISPR-Cas9システムを用いて嗅細胞に発現するカルシウム依存的に機能する転写調節因子の網羅的なノックアウト(KO)マウスの作製および解析を行った。その結果、特定の転写調節因子のKOマウスにおいて軸索選別分子Kirrel2の発現が消失することを確認した。このマウスにおける神経活動の記録を行った結果、自発活動中にKirrel2を発現誘導する神経活動パターンは消失していなかったことから、特定の転写因子は神経活動レベルではなく転写レベルにおいて軸索選別分子の発現を制御していることを明らかとした。 一方で、Kirrel2と異なる神経活動パターンで発現が誘導される軸索選別分子PCDH10およびSema7Aは、これまでに解析したKOマウスにおいて発現の減少が確認されていない。さらに、解析を継続して行うとともに来年度では各因子がどのような活動パターンによって活性化されるのか、および因子間のクロストークによる軸索選別分子の発現パターンの多様化を支えるメカニズムに迫る実験を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、当初の目的であった軸索選別分子の発現制御に関わる転写調節因子の同定のため、転写調節因子のノックアウトマウスの網羅的な作製と解析をこれまでにおおむね完了させている。RelA(NF-κB)やCaMKIIなどに加えてMAPKなどの転写調節因子のノックアウトマウスをCRISPR-Cas9システムを用いて網羅的に作製し、軸索選別分子の発現解析を行った。 その結果、軸索選別分子Kirrel2の発現を制御する転写調節因子を明らかとした。この結果は、特定の神経活動パターンによって誘導されるカルシウム濃度変動が細胞内で特定の転写調節因子を選択的に活性化し、その下流に存在する軸索選別分子の発現を誘導していることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、転写調節因子のノックアウトマウスの網羅的な解析の結果から軸索選別分子Kirrel2の発現を制御する転写調節因子の存在を明らかとしてきた。一方で、Kirrel2と異なる神経活動パターンで発現が誘導される軸索選別分子PCDH10およびSema7Aは、これまでに解析したノックアウトマウスにおいて発現の減少が確認されていない。 したがって、これらの軸索選別分子の発現に関与する転写調節因子の同定を目指し、ノックアウトマウスの解析を継続して行うとともに来年度以降では各転写調節因子がどのような活動パターンによって活性化されうるのか、および因子間のクロストークによる軸索選別分子の発現パターンの多様化を支えるメカニズムに迫る実験を行う。
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