2021 Fiscal Year Annual Research Report
経時的に変化する神経活動を分子発現へと変換する転写調節機構
Project/Area Number |
20J01576
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊原 尚樹 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 嗅覚系 / 転写制御 / 神経回路形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
嗅覚系では、発現する嗅覚受容体の種類に規定された神経活動のパターンが複数の軸索選別分子の発現量を制御し、嗅覚受容体特異的な回路構築を可能としている。神経活動は、活動電位という電気パルスを単位とするスパイク列であり、そのパターンは時間情報である。活動依存的な遺伝子発現に関する研究は古くから行われているものの、経時的に変化する情報をいかにして細胞内の分子が読み取り、多様な遺伝子発現へと変換しているのかについて、これを説明する具体的なシグナル伝達機構は明らかになっていない。本研究の目的は、神経活動の下流で働く転写調節因子の同定とその作用機序の理解を通じて、細胞が神経活動パターンという時間情報をいかにして解読しているのか、その基本原理を明らかにすることである。 前年度までに、網羅的な転写調節因子の解析から軸索選別分子Kirrel2の発現制御に関わる転写調節因子を明らかにしており、本年度は、さらなる転写調節因子の解析を行うことで、PCDH10の発現制御に関わる転写調節因子の存在を明らかとした。 これまでの研究成果から、Kirrel2とPCDH10は異なる神経活動パターンによって発現が誘導されることを明らかとしている。これらの結果を踏まえると、特定の神経活動パターンは特定の転写調節因子の活性化を介して軸索選別分子の発現を制御していると考えられる。 一方で、ノックアウトマウス解析の結果から、Kirrel2の発現に促進的、PCDH10の発現に抑制的に働く転写調節因子が存在することを明らかとしている。転写調節因子は、カルシウム濃度変化に伴って活性化するリン酸化酵素もしくは脱リン酸化酵素であることを考慮すると、転写調節因子の間でのクロストークが存在し、リン酸化・脱リン酸化が拮抗することで下流の軸索選別分子の発現レベルが制御されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、網羅的な転写調節因子のノックアウト解析により、軸索選別分子の発現に関与する転写調節因子を明らかにした。これらの結果およびこれまでの研究結果から、異なる神経活動パターンは、細胞内でカルシウム濃度変動を介して特定の転写調節因子を活性化し、その下流にある軸索選別分子の発現を制御しているという一連の発現制御機構が示唆された。さらに、網羅的なノックアウトマウス解析の結果から、Kirrel2の発現に促進的、PCDH10の発現に抑制的に働く転写調節因子が存在することを明らかとしており、これは転写調節因子同士で互いにクロストークすることによって、より複雑に軸索選別分子の発現レベルが調節されていることを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、転写調節因子は下流で互いにクロストークすることによって、軸索選別分子の多様な発現レベルの制御を行っていることを示唆するデータを得ている。転写調節因子はキナーゼ(リン酸化酵素)もしくはホスファターゼ(脱リン酸化酵素)であることを考慮すると、活性化に伴って、特定の分子のリン酸化状態をコントロールすることでその下流の軸索選別分子の多様な発現パターンを作り出すことを可能としていると考えられる。この仮定に基づき、本年度は網羅的なリン酸化状態のスクリーニングを実施することで、転写調節因子同士にはどのようなクロストークが存在し、どのように軸索選別分子の発現を可能としているか、その発現制御機構の全貌に迫る。
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