2020 Fiscal Year Annual Research Report
アリ類における生物時計の社会的制御機構と適応的意義の解明
Project/Area Number |
20J01766
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
藤岡 春菜 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2025-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / 日周リズム / 概日リズム / 社会的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、時間生物学と進化生態学を統合し、社会性動物における生物時計の解明をめざす。生物のさまざまな行動や生理現象は、約24時間周期で変動する。その日周リズムは、内的な生物時計によって生み出され、昼夜のサイクルに適応した生理システムである。近年、社会性昆虫で、社会的相互作用によって日周リズムが柔軟に変化することが明らかとなった。特に顕著な例として、育児個体の活動リズムは、卵や幼虫と相互作用することで、常時活動性と変化する。しかし、どのような仕組みで、社会的要因が日周リズムを制御するのかはほとんどわかっていない。そこで本研究では、トゲオオハリアリを用いて、社会的相互作用による柔軟な概日活動リズムの変化を生み出す生理機構を解明する。体内に約24時間周期を生む振動体(概日時計)は、時計遺伝子とよばれる一連の遺伝子群によって構成されている。時計遺伝子が欠損すると、概日リズムの振幅や周期が変化する。そのため、行動レベルでの概日リズムの消失(振幅の変化)時に、時計遺伝子が振動しているのかを調べることが、概日リズムの生理機構を解明するための第一歩となる。本年度は、脳における複数の時計遺伝子の発現振動の解析を進めた。さらに、行動実験では、集団(コロニー)下での各個体の活動リズムや、複数のアリ種を用いて、単独条件下における活動リズムの測定を進めた。コロニー条件下の活動リズムについては、その結果を論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、トゲオオハリアリ(Diacamma cf.indicum from Japan)を材料に、時計遺伝子の発現振動を調べた。個体間相互作用などの社会的要因から単離し、概日活動リズムを示す“単独条件”と、常時活動性を示す幼虫と同居させた育児条件で、ワーカーの時計遺伝子の発現振動の有無と概日活動リズムの有無が一致するのかを調べた。来年度中には、これらのデータを解析し、結果を報告できる予定である。 多くのアリ類は地中生活をするため、巣内における各個体の概日活動リズムの測定は、技術的に難しかった。本研究では、Bug Tag (Robiotec Ltd.)という二次元バーコードタグによる個体識別を可能としたトラッキングソフトウェアによってこの問題を解決した。このトラッキングでは、全個体を識別した上で各個体の座標、向きの時系列データを自動取得することが可能である。トゲオオハリアリを対象に、実験室内のコロニー条件(全暗・温度一定)で、各個体の活動リズムを測定した結果、単独状態では日周リズムを示すが、コロニー条件ではほとんどの個体が、日周リズムを示さないことが明らかとなった。この研究は、時間生物学の専門誌Journal of biological rhythms誌に掲載が受理されている。 本研究では、本州に生息する四種類のアリを採取、飼育し、赤外線センサーを用いたショウジョウバエ活動記録装置(DAM)で活動リズムの測定を行った。採餌個体、育児個体など巣内での行動や形態をもとに、カーストの区分を行った。来年度からも引き続き種数を増やし、測定を続けていく。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、トゲオオハリアリの時計遺伝子の1日単位での振動を調べる。リアルタイムPCRを用いた発現量解析は終えたため、データの解析と、 論文の執筆を行う。行動実験では、幼虫の匂いによって、育児アリの概日活動リズムが変化するか調べる。ヘキサン溶液に幼虫を浸し、体表炭化水素を抽出する。容器の中心にビーズを接着させ、 抽出液を塗布する。その容器に巣内で育児を行う若齢個体を1匹入れ、個体の行動を5日間撮影し、申請者が保持する自動追尾システムで概日活 動リズムを測定する。得られたデータから、概日活動リズムの度合いを解析し、通常の育児条件と同様に常時活動性を示すのかを調べる。さら に、各個体の栄養交換行動の観察も行う。本研究では二次元バーコードタグを機械学習によって検出し、個体識別を可能としたトラッキングソ フトウェアによって、コロニー条件での各個体の概日活動リズムを明らかにする。さらに、餌に蛍光性マーカーを加え、蛍光カメラで、その餌 を食べた個体の胃の内部にある餌を自動追尾する。この技術と先述の個体の位置情報を統合することで、どの個体からどの個体へ、餌が受け渡 されたのかを調べる。 昨年度同様に、種間比較を行うため、複数種で単独条件時の内的な概日活動リズムの挙動を調べる。継続飼育している巣や、野外から採集した 巣を用いて、各個体の概日活動リズムを測定する。光条件は、光サイクルのある明暗条件と恒暗条件で行い、光への同調性について調べる。
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