2020 Fiscal Year Annual Research Report
高精度なボイド率測定手法を適用した沸騰水素の熱流動特性の解明
Project/Area Number |
20J01907
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
坂本 勇樹 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | 液体水素 / ボイド率 / 熱伝達率 / 流動様式 / 気液二相流 |
Outline of Annual Research Achievements |
打ち上げロケットには液体水素や液体酸素といった極低温燃料が使用される.また地上では将来の水素社会実現に向けて液体水素による大量輸送・大量消費に向けた研究開発が進められている.液体水素は燃料としての性能やエネルギー密度の観点で優位であるものの,その沸点は-253 ℃であるため,容易に沸騰するという課題がある.沸騰状態では,時間的・空間的にダイナミックに流動状態が変動するため,従来は気液二相状態を避ける運用がなされてきた.これに対して,高効率で安全な宇宙輸送やエネルギ輸送を実現するには,沸騰状態を含めて液体水素が持つ冷熱側のエネルギーを最大限活用し,無効エネルギーを削減する計測制御手法の確立が重要である. これまでに,①従来申請者が開発してきたボイド率計の堅牢化設計手法の検討,②沸騰水素の流動特性取得試験,③沸騰状態を含めた水素の配管流動解析モデルの構築に取り組んできた.①に関しては,博士課程時に所属していた研究室との協力のもと,センサー設計および試作を実施した.②に関しては,従来試験から圧力範囲を拡大した条件での流動を行った.また,本試験では従来課題となっていた流量測定方法を見直した構成への変更を行っている.しかしながら本試験では流量計の追加により入熱量が増大し,所定の流動条件が作り出せないことを確認した.改善項目等は抽出できており次年度に再試験を実施予定である.③については市販コードをベースとして,沸騰水素用に作成した独自モデルを導入した.これにより非定常の1次元配管解析を可能としており,実験結果と定性的に一致するプログラムを構築している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【課題1】高精度・高信頼のボイド率測定技術の開発:申請者は学生時代より静電容量測定を応用したボイド率(気液の混合比)測定法を考案・開発してきた.これまでに開発してきたボイド率計は,樹脂で製作した配管の外側に電極を配置する「非対称型ボイド率計」であった.非対称型ボイド率計は測定の高精度化が図れるものの耐圧性能や堅牢性に課題があった.これらの課題を解決するべく基本的な構成コンポーネントを金属化する「オール金属複数極板ボイド率計」を検討した.極板絶縁処理手法の選定等を完了し,博士課程時に所属していた研究室との協力のもと試作品の開発を完了している.これらの知見をもとに今後は液体水素に適用可能なボイド率計の開発を行う. 【課題2】ボイド率測定に基づく熱流動特性の解明:今年度は従来試験で取得できていない流路径15mm/圧力0.3MPaA~0.5MPaA域の試験データの取得目的に試験を実施した.本試験では流量測定精度向上のために,供試体上流の簡易断熱区間にタービン式の流量計を配置することとした.しかし,新規に設置した流量計での入熱量が想定よりも大きく,供試体運転条件である入口での液単相を達成することができなかったため,有用なデータ取得には至らなかった.現在流量計部分の配管長削減と熱侵入の小さな構成への変更を行っており,今後の再試験を予定している. 【課題3】流動モデルの構築・配管流動解析:従来得られている最大圧力 0.3MPaA/配管内径 15mm 条件で開発した熱流動モデルから,1次元の配管計算プログラムを構築した.ベースとしてMatlab/Simulink/Simscapeを利用した.現時点で既存の沸騰試験データを定性的に再現することを確認している.
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Strategy for Future Research Activity |
【課題1】高精度・高信頼のボイド率測定技術の開発:これまでに得られた「オール金属複数極板ボイド率計」に関わる知見を総合して,沸騰水素に適用可能なボイド率計を開発する.具体的には,極板の最適化を適用したセンサー設計,低温環境へ適用可能な絶縁処理等を実証データの取得を行う予定である. 【課題2】ボイド率測定に基づく熱流動特性の解明:昨年度実施した流路径15mm/圧力0.3MPaA~0.5MPaA域の試験データの取得に再度取り組む予定である.現在流量計部分の配管長削減と熱侵入の小さな構成への変更を行っており,まずは単体での流動試験に供して性能の確認を行う.得られた実験結果をもとに,気液混合特性,流動様式遷移特性,熱伝達特性のモデル化を行う.合わせて次年度実施の流路径10mmの試験に向けた準備を行う予定である. 【課題3】流動モデルの構築・配管流動解析:これまでに独自に構築した流動モデルを反映した配管流動計算プログラムを構築し,実験値との定性的な一致を得ている.一方で定量的な比較では,液単相時の熱伝達率を小さく見積もり配管温度が実験時に比較して高くなる結果を得ており,これらの課題の修正に取り組む.また課題2の試験結果に基づき,新たな沸騰水素流動モデルを計算プログラムに反映する.
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