2020 Fiscal Year Annual Research Report
超小型衛星を用いた小型宇宙レーザー干渉計による巨視的量子力学理論の高精度検証
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20J01928
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
長野 晃士 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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Keywords | レーザー干渉計 / 量子力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、精密計測のプラットフォームとしての超小型宇宙レーザー干渉計の技術を開発し、100 gという巨視的な質量スケールでの量子力学を検証することである。そのために、高精度ドラッグフリー制御を実現するための直交位相干渉計型レーザー干渉計センサーや、地上実験のための折りたたみ振り子やヘキサポットを用いた防振装置の開発を行った。 衛星を用いた精密測定のためには、衛星に加わる太陽輻射圧変動や衛星スラスターによって生じる衛星振動を低減するドラッグフリー制御技術が必須である。この制御に用いる高精度なセンサーとして、直交位相干渉計型レーザー干渉計センサー QUIMETT (QUadrature Interferometric MEtrology of Translation and Tilt) の開発を進めている。本年度はプロトタイプQUIMETTを構築し、変位計測の原理実証を行った。 また、本研究で開発するレーザー干渉計の地上試験を行うためには、地面振動雑音を低減する必要がある。受動防振装置として折りたたみ振り子を、能動防振装置としてピエゾ素子を使ったヘキサポッドを開発した。折りたたみ振り子においては、50 um程度のヒンジを製作する必要があるが、最薄で20 umの加工に成功し、折りたたみ振り子の製作の道筋が示された。ヘキサポッドについては、新規に設計し実験室内で組み立てを行った。 以上の成果は、次年度以降に行う、量子力学の検証に向けた主レーザー干渉計の開発の基礎となる重要なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で目指す衛星を用いた精密測定においては、衛星に加わる太陽輻射圧変動や衛星スラスターによって生じる衛星振動が雑音源となる。この衛星振動を低減するための技術が、衛星内に安定に保持された理想的には重力のみがはたらく基準物体に対して衛星を追従させるドラッグフリー制御技術である。ドラッグフリー制御の究極的な精度は、基準物体と衛星の相対位置・姿勢を測定するセンサーの精度で決まる。既存のセンサーでは、本研究で目指す精度には到達できないため、本研究ではより高精度なセンサーとして、直交位相干渉計型レーザー干渉計センサー QUIMETT (QUadrature Interferometric MEtrology of Translation and Tilt) の開発を進めている。特に本年度は、プロトタイプQUIMETTを宇宙科学研究所に構築し、変位計測の原理実証を行った。プロトタイプQUIMETTを用いて、取得した直交位相信号(電圧信号)を、被測定物の変位に較正できることを実証した。 また、本研究で開発するレーザー干渉計の地上試験を行うためには、地面振動雑音を低減する必要がある。地面振動雑音の低減には、懸架系による受動防振装置と、制御によって防振する能動防振装置がしばしば用いられる。本研究では、これらの2つを組み合わせて使用することを検討している。本年度は、受動防振装置として折りたたみ振り子を、能動防振装置としてピエゾ素子を使ったヘキサポッドを開発した。折りたたみ振り子においては、50 um程度のヒンジを製作する必要があるため、ワイヤー放電加工を用いた試作を進めた。その結果、最薄で20 umの加工に成功し、折りたたみ振り子の製作の道筋が示された。ヘキサポッドについては、新規に設計し、実験室内で組み立てを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究は、まずこれまでに開発を行ってきたQUIMETTとヘキサポッドと折りたたみ振り子による防振装置の改良を行う。その後、高安定な参照共振器を用いたレーザー周波数安定化を進める。そして、これらの技術を統合し、ヘキサポッドによって衛星運動を模倣する形で、量子力学の検証に向けた主レーザー干渉計の開発を進める。 QUIMETTについては、現在のプロトタイプ感度から約3桁の感度向上を目指す。このために、実験室の気流による雑音の低減のための風防を導入する。ヘキサポッドについては、FPGAなどのデジタル系を用いた対角化を行うことで他自由度カップリングによる精度悪化を低減し、折りたたみ振り子については、Q値の向上などを目指す。レーザー周波数安定化については、熱膨張が小さい素材であるインバーを用いた参照共振器を作成し、さらに光学素子とブレッドボードを一体化させた振動感度が小さいモノリシック光学系も活用し、目標とする周波数安定度の実現を目指す。これらの開発が完了次第、統合試験を行う。その際には、ヘキサポッドによって衛星運動を模倣するドラッグフリー制御と、光共振器を含むレーザー干渉計制御の同時動作を初めて目指す。 以上により開発を進めた装置については、航空機試験や自由落下試験による低重量環境下での性能評価を行う。航空機を用いた試験は、製作した干渉計が標準量子限界に到達する可能性を持つか判断できる重要な機会でもある。航空機を用いた動作試験中は、地球磁場などの影響により、標準量子限界に到達するのは難しい。しかし、磁場雑音の影響は、磁場センサーを用いた事後データ処理で低減することが可能である。その後、エンジニアリングモデルやフライトモデルの製作・試験を行い、軌道上での世界初の量子もつれの生成や、量子状態が重力によりデコヒーレンスする現象の観測などを目指す。
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Research Products
(4 results)