2020 Fiscal Year Annual Research Report
フランス革命期・ナポレオン体制期における17世紀イングランド史の表象
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20J10032
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
楠田 悠貴 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ルイ16世裁判 / 新たなクロムウェル / ジャック=ピエール・ブリソ / デイヴィッド・ヒューム / キャサリン・マコーレー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスにおける史料調査を積み重ね、幅広く網羅的な史料読解を行うことで、17世紀イングランドの歴史がフランスでどのように受容され、フランス革命とナポレオンの時代の歴史的展開にどのような機能を果たしたのかを明らかにすることを目指す。 初年度にあたる2020-21年度は、パンデミックの影響を受けて思い通りに史料や文献にアクセスすることができず、網羅的な史料読解に基づいた結論を出すまでには至らなかったが、既存の理解を修正する見込みがついた。ローレンス・ボンギの研究によって デイヴィッド・ヒュームの『イングランド史』が革命前夜のフランスでベストセラーとなり、反革命家たちがフランス革命を批判するために彼の批判的解釈をふんだんに援用したことが知られていたが、革命前夜にジャック=ピエール・ブリソがオリヴァー・ゴールドスミスの『イングランド史』を翻訳し、革命初期にミラボー伯爵の主導のもとキャサリン・マコーレーの共和主義的な『イングランド史』が翻訳されるなど、多様な英革命史解釈の存在を明らかにし、革命派も17世紀イングランド史の異なる解釈を援用していたと示せそうである。また、1660年のイングランド王政復古への言及や名誉革命への言及を調査中であり、最終的にピューリタン革命への言及と比較しながら考察を進めていきたいと考えている。 加えて、昨年度はこれまでに取り組んできた問題を振り返る好機となった。ルイ16世裁判期にチャールズ1世裁判への言及が多くなされており、これまで軽視されてきた国民公会議員のパンフレット、議会外の史料を用いて、イングランド史への言及という観点から国王処刑賛成の共和主義者、国王処刑反対の共和主義者、王党派の三者の議論を整理した。また、革命期全体を通して見られるフランスに「新たなクロムウェル」が出現するという強迫観念をたどり、大まかな英革命への意識の推移を把握できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
報告者は、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延にともなって、この一年間、史料・研究文献へのアクセスが著しく制約され、研究遂行計画を予定通り遂行することができなかった。報告者の研究は、フランス革命史研究の見過ごされた点を開拓しようとするものであるため、研究文献に依拠することができず、報告者自らフランス現地に赴き図書館・文書館において幅広く史料調査することが不可欠であるが、衛生状況の悪化に伴う日本政府や所属大学による渡航禁止勧告、国際航空便の減少、日仏政府による国境封鎖や防疫隔離措置の実施、フランスの度重なる外出禁止令などによって、予定していた調査活動をほとんど実現することができなかった。また、パンデミックの波が幾度となく日本全国を襲い、所属大学の図書館や研究室も閉鎖され、居住地近隣の大学もすべて部外者の立ち入りを禁止したため、研究文献さえも思い通りにアクセスできなかった。 ただし、かつての研究成果を公刊できたことについては、大きな前進だったと考えている。報告者は、2019年8月に成蹊大学で開催された日韓合同シンポジウムにおいて、「ルイ16世裁判再考:チャールズ1世裁判の解釈をめぐって」と題する研究報告を行ったが、同シンポジウムの成果が『東アジアから見たフランス革命』(風間書房、2021年3月)と題して刊行され、拙論が掲載された。研究以外でも、ナポレオン戦争に関する基礎文献の翻訳やナポレオン没後200年を振り返る小文の寄稿など、幅広い学術活動を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度はパンデミックの影響でフランスにおける史料調査を充分に実施できなかったため、本年度は(パンデミックによる衛生状況・国際往来の状況を考慮しながら)複数回、長期間にわたってフランスに滞在し、現地の各図書館・文書館に赴いて史料調査を行う予定である。とりわけ、申請者が既に作成済みの革命期・帝政期フランスにおけるイングランド史に関する出版物目録に基づいて史料を網羅的に収集し、当該期における17世紀イングランド史の関心事項の変遷や刊行版数の推移を分析する。 そのほか多くの掘り下げたいテーマが残っているが、特に重点的に掘り下げていきたい問題は次の二点である。第一に、回想録で生涯にわたってイングランド史を意識していたと告白しているジロンド派のブリソを取り上げ、国立文書館ピエールフィット館に残る手稿史料(446AP/9 Fond Brissot)を渉猟し、彼が刊行した新聞や翻訳した歴史書、その他の出版物などを踏まえながら、彼の思想形成においてイングランド史がどのような役割を果たしたのかを明らかにする。そのうえで、他の急進派(とりわけマラやロベスピエールらの著作全集が刊行されている革命家)の言及や、穏健派・反革命派の言及との相違点・類似点について考察する。第二に、ナポレオン・ボナパルトがイングランド史について作成したノート、彼の書簡集(全15巻)、流刑先のセント=ヘレナ島に随行した者たちの史料群(ラス=カーズ、グールゴ、ベルトラン、オメアラ等)などを主たる史料としながら、ナポレオンがイングランド史をどのように捉えていたのかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)