2020 Fiscal Year Annual Research Report
Cryo-EMを用いる生体環境におけるβ2ミクログロブリン線維形成機構の解明
Project/Area Number |
20J10085
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
張 春明 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 破傷風毒素 / グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素 / 結晶構造解析 / 溶液構造解析 / 低温電子顕微鏡法解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
博士前期課程では、後藤祐児教授の下で過飽和生命科学を学び、タンパク質科学の重要なテーマであるアミロイド線維の形成メカニズムを調べていたが、博士後期課程から井上豪研究室に進学し、研究室の移動に伴う研究環境の変化で、「Cryo-EMを用いる生体環境におけるβ2ミクログロブリン線維形成機構の解明」の遂行が困難だと思われた。井上研究室では長年間、構造生物学的アプローチを用いて破傷風毒素(TeNT)の膜侵入の分子メカニズムを解明している。それで、結晶と溶液の構造解析を駆使し、還元型TeNT及び膜結合、膜貫通と基質切断の機能を持つ3つのドメインの結晶構造が高分解能で決定されたほか、膜貫通ドメインの溶液中におけるベルト領域の動的変化が明らかとなり、破傷風毒素の生体内への毒作用機構についての総合的な理解が深まり、創薬のための重要な構造基盤科学が明らかとなった。一方、結晶構造解析に加えて、低温電子顕微鏡法(Cryo-EM)を用いて、ヒトの白血球細胞由来のグリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の構造相関解析を調べていた。先ず、GAPDHのCryo-EM構造解析について、傾斜像を用いたことで、分解能を向上する(2.7 Aから2.3 Aへ)ことを実証した。X線結晶構造とCryo-EM構造との比較で、基質の局在及びそのオリエンテーションが違うことからGAPDHの酵素活性サイトにおける基質の異なる代謝反応ステージを可視化することができたと思われる。更に、四重極-飛行時間型質量分析計を用いて、GAPDH、補酵素、GAPDHと基質が結合している反応中間体及びその代謝反応産物を同定した。その後、蛍光分光光度計を用いて、補酵素(NAD+)と基質(G3P, Pi)を使って、GAPDHの酵素活性も測定した。GAPDHの酵素活性における基質のダイナミクスに関する新たな知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
博士前期課程では、後藤祐児教授の下で過飽和生命科学を学び、タンパク質科学の重要なテーマであるアミロイド線維の形成メカニズムを調べていたが、博士後期課程から井上豪研究室に進学し、研究室の移動に伴う研究環境の変化で、「Cryo-EMを用いる生体環境におけるβ2ミクログロブリン線維形成機構の解明」の遂行が困難だと思われた。それで、「破傷風毒素の膜侵入の分子メカニズム」と「グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素の酵素活性に関する構造相関解析」を優先に遂行した。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞で異常なタンパク質が蓄積し、アミロイドシースを引き起こされる現象は、透析アミロイドーシスやアルツハイマー病等の蛋白質変性疾患等の加齢性疾患に関与することが報告されている。一方、細胞において、ミトコンドリアと小胞体の連携的な物質輸送・情報伝達が細胞の生と死を決定することも知られている。細胞でのタンパク質フォールディングに異常が生じると、アミロイド線維蓄積を引き起こし、細胞はそのトラブルを解消しようと試みるが、ある時空間スケールを境に、自発的な細胞死を選択する。老化はタンパク質ミスフォールディング感受性を高めてしまうので、アミロイド線維蓄積による細胞死が高頻度で発生し、老化関連疾患の発症へ至ると考えられる。最近、細胞でアミロイド線維などの異常蛋白質線維化・蓄積とミトコンドリアへの蛋白質輸送が注目されるようになっているが、そのメカニズムはほとんど分かっていない。 今後の推進方策として、ミトコンドリアと蛋白質の生産工場である小胞体の膜接触サイトに焦点を当てて、低温電子顕微鏡法解析を用いて、ミトコンドリアへの物質輸送・情報伝達に関わる複合体の構造解析を試みる。将来、透析アミロイドーシスをはじめとした蛋白質変性疾患において、ミトコンドリア物質輸送・情報伝達を標的とした機能性抗体などの開発に資する創薬のための構造基盤科学につながることが期待されている。 本年度、申請者はミトコンドリアと小胞体の膜接触サイト複合体のCryo-EM構造解析を研究活動の中心に据え、チャレンジする。具体的には、まず、適切な条件で複合体の発現及び精製を行う。次に、リガンドや脂質分子、界面活性剤などの条件を設定し、それらの複合体安定化への効果を調べる。そして、良質なグリードを作成し、東京大学でCryo-EMを用いて、サンプルを観察し、データ収集を行う。最後に、Relionなどの解析ソフトを用いて、構造解析を行う。
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