2020 Fiscal Year Annual Research Report
大気中微粒子曝露による神経炎症を介した脳梗塞の予後悪化メカニズムの解明
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20J10103
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 美樹 広島大学, 統合生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 脳梗塞 / PM2.5 / 相加的神経炎症 / ミクログリア / AhR |
Outline of Annual Research Achievements |
【背景】PM2.5による大気汚染は世界的な懸案事項である。PM2.5は呼吸器系を通じて体内へ吸収されるため,これまでは専ら呼吸器系への影響が注視されてきた。しかし近年,脳神経系への影響が明らかになりつつあり,高濃度のPM2.5曝露により脳梗塞予後が悪化するとの疫学的報告が複数発表された。しかし,PM2.5曝露による脳梗塞予後悪化に関する実験的研究は行われておらず,メカニズムは不明である。本邦では高齢化社会の進行により脳梗塞患者数の増加が見込まれており,この分子メカニズムの解明は急務である。そこで本研究は「PM2.5曝露による脳梗塞予後悪化メカニズムの解明」を目的とした。 【仮説】生体内に取り込まれたPM2.5は呼吸器系に作用し炎症を惹起する。PM2.5は鼻腔上皮層を介して脳実質へ到達するとの報告より,PM2.5は脳に作用し神経炎症を引き起こすことが考えられる。また,脳梗塞は発症後に顕著な神経炎症が生じる疾患であり,炎症増悪により予後が悪化することが報告されている。上記より申請者は,PM2.5曝露による神経炎症と脳梗塞後に生じる神経炎症が相加的に作用することで過剰な炎症が引き起こされる「相加的神経炎症」を着想し,予後悪化の仮説とした。 【結果】これまでに申請者は,PM2.5曝露による脳梗塞の予後悪化を再現するマウス実験系を樹立した。本系を用いて脳虚血7日後までの病態を評価すると,PM2.5曝露マウスでは顕著な予後悪化が認められた。また,PM2.5曝露マウス脳において炎症評価を行い,PM2.5により神経炎症が誘発されることを明らかにした。さらに,PM2.5による神経炎症誘発には,芳香族炭化水素受容体(AhR)及びそのリガンドである多環芳香族炭化水素(PAHs)が寄与する可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は ① PM2.5曝露による脳梗塞予後悪化について動物実験レベルで再現できる系の樹立,② PM2.5曝露による神経炎症誘発の評価とメカニズムの解明を目指し,研究を行なった。 ① 雄性ICRマウスにPM2.5(NIES CRM No.28, 100 μg/mosue/day)を7日間経鼻曝露し,Photothrombosisにより脳虚血を誘導した。虚血7日後までRortarod testによりマウスの運動能力を測定し,TTC染色により死細胞体積を定量することで予後を評価した。その結果,PM2.5曝露マウスでは運動能力,死細胞体積ともに有意に増悪し,顕著な予後悪化が認められた。 ② PM2.5曝露後のマウス脳を解析すると,炎症細胞ミクログリアの活性化や炎症性サイトカインの発現増加が認められた。さらにPM2.5による神経炎症の分子機構解明のため,芳香族炭化水素受容体(AhR)及びそのリガンドである多環芳香族炭化水素(PAHs)に着目した。アセトン及びジクロロメタンを用いてPAHsを除去したPM2.5の"コア粒子"をマウスへ曝露すると,予後悪化は認められなかった。よって,PM2.5曝露による脳梗塞の予後悪化には,PAHs-AhR系を介した神経炎症が関与する可能性が示唆された。 以上より2020年度は,当初予定していた ① 及び ② の研究目的ともに達成しており,期待通り研究が進展したと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,脳虚血後の炎症性合併症である脳浮腫を評価する。脳浮腫は,血液脳関門(BBB)のバリア機能低下により生じる。過剰量の水分が脳実質へ蓄積するために脳が膨大化し,頭蓋内圧が亢進することで脳機能が低下する。申請者はこれまでに本研究との関連テーマにおいて,脳梗塞急性期に生じる神経炎症が脳浮腫を悪化させることを示した(Biochem Biophys Res Commun. 2018;496(2):582-587)。よって,PM2.5による神経炎症と虚血後の神経炎症の相加作用により脳浮腫が増悪することで運動機能が低下する,との仮説を立てている。当研究室では,核磁気共鳴画像法(MRI)と脳組織染色であるTTC染色を組み合わせた新規の脳浮腫評価法を確立している。この方法により脳浮腫の形成過程を時空間的に詳細に検討し,PM2.5曝露による影響を精査する予定である。
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Research Products
(6 results)