2020 Fiscal Year Annual Research Report
窒化ガリウム結晶及びデバイスにおける貫通転位に起因した漏れ電流発生機構の解明
Project/Area Number |
20J10170
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
濱地 威明 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 窒化ガリウム / 貫通転位 / 電流漏れ現象 / 透過電子顕微鏡 / 多光子励起フォトルミネッセンス顕微鏡 / ナノビームX線回折 / 転位伝播様式 / バーガースベクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
集束イオンビームを用いた転位部への微細電極蒸着技術と電流検出型原子間力顕微鏡を用いた局所電気測定技術の併用により,貫通転位のショットキー特性を個々に計測できる独自技術を基軸に,透過電子顕微鏡(TEM)並びに多光子励起フォトルミネッセンス顕微鏡(MPPL)による転位構造・形態評価を組み合わせた多角的な転位解析アプローチを構築した.自立GaN基板,及びGaN種基板上ホモエピタキシャルGaN結晶を対象に上記アプローチを適用し,貫通転位における電流漏れ特性と構造・形態の一対一評価を行った.その結果,貫通転位の電流漏れ度合いがバーガースベクトルや結晶表層での伝播形態に応じて変化することを見出した.特に,TEMによる大角度収束電子回折法と走査型TEM(STEM)平面観察により,報告例が極めて少ない異質なバーガースベクトルを持つ特異転位を発見し,その転位で電流漏れが増大する傾向を明らかにした.その上で,転位の伝播や起源について実験と弾性論に基づく理論計算の両観点から解析を進め,エピタキシャル成長層における転位の傾斜様式や起源が,バーガースベクトルや結晶成長モホロジー,基板との界面に介在する異質物と密接に関連することを実証した. また,貫通転位の電流漏れに及ぼす格子歪の影響を探るべく,SPring-8のナノビームX線回折(nanoXRD)による単独貫通転位の歪分布評価技術を構築した.TEMとMPPLにより予め貫通転位のバーガースベクトルと伝播形態を明らかにした上で,個々の貫通転位に照準したnanoXRDマッピングを行った.測定データの解析により,転位周囲における歪テンソル成分面内分布の抽出に成功し,歪分布がバーガースベクトルに応じて異なることを示した.これらの実験結果が,連続体モデルを用いた転位の理論的な弾性歪テンソル分布の計算結果と概ね整合し,得られたデータの妥当性を確かめた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,個々の貫通転位についてバーガースベクトルを含むナノメートルスケールの微細構造,サブミリスケールの転位伝搬形態,電流漏れ特性を一対一で評価できるアプローチを構築し,特に,GaN種基板上ホモエピタキシャルGaN結晶,並びに自立GaN基板結晶における転位の評価を推進した.その結果,貫通転位のバーガースベクトルや結晶表層近傍における伝播形態が転位での電流漏れ特性に寄与することを明らかにした.その上で,ウェットエッチングで貫通転位部に形成したエッチピットサイズとバーガースベクトルの一対一対応関係を確立し,結晶中の転位挙動を統計的に解析することで,転位の伝播形態や起源のバーガースベクトル依存性を見出した.理論計算により,これら転位の伝播様式がバーガースベクトルや結晶成長モホロジーと密接に関わることを実証した. また,大型放射光施設SPring-8におけるナノビームX線回折系を応用した単独貫通転位の歪分布解析技術を構築し,歪テンソル成分c面内分布がバーガースベクトルによって異なることを確認した.並行して,電気特性の温度依存性(I-V-T)評価における温度領域で安定的な裏面電極,並びに電子ビーム蒸着装置によるGaN縦型ショットキーバリアダイオード(SBD)の作製プロセスも構築した.これまで蓄積してきた転位部ショットキー特性との関連性を評価する狙いで,pnダイオードよりも構造が単純なSBDを採用し,SBDが室温下でショットキー特性を示すこと,転位箇所で再現性のあるI-V-T特性を取得できることを現段階で確認できている.これら評価系の構築により,電流漏れの電気伝導機構や発現因子の解明に向けた次年度の研究準備を整えた.以上より,本年度はおおむね順調に進展しているといえる.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は,GaN基板結晶並びにGaN基板上ホモエピタキシャルGaN結晶を対象に,室温下における貫通転位の電流漏れ特性と結晶構造・形態との関連性に注目した解析を行ってきた.次年度は,上記と同様なGaN基板上ホモエピタキシャルGaN結晶を対象に,単一の貫通転位におけるI-V-T評価を複数の転位に対して行い,電流漏れに関わる欠陥準位の深さや密度,電子輸送モデルといった,転位部におけるショットキー界面での電気伝導機構を明らかにする.各転位のバーガースベクトルを含む微細結晶構造や形態も解析し,電気伝導機構との相関を探索する.並行して,同結晶を用いたGaN縦型SBDを作製し,I-V-T測定及び容量-電圧測定で得られる電気特性を解析することにより,デバイスにおける電流漏れの電気伝導機構を明らかにする.同一結晶を対象としたSBDと転位部の電気伝導機構の評価により,デバイス特性に及ぼす転位電流漏れの影響を明らかにする. また,STEMを用いた電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)によって,貫通転位の転位芯周囲の価電子状態解析にも取り組む.上述の大きな電流漏れが生じた異質なバーガースベクトルを有する特異転位部では,他のバーガースベクトルを持つ転位に比べて大きな歪分布を有することがnanoXRD測定により判明し,この転位芯近傍では不純物元素等の点欠陥が集積している可能性が示唆された.個々の貫通転位近傍における歪分布,価電子状態,局所電流漏れ測定を系統的に行うことにより,転位部での電気伝導機構に関わる元素組成や,電流漏れと格子歪の関係性を探索し,本質的な電流漏れ発現因子を解明する.
|
Research Products
(4 results)