2020 Fiscal Year Annual Research Report
開殻性/反芳香族性の制御を指向した新規非交互炭化水素の創成と機能性材料への展開
Project/Area Number |
20J10273
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
掘井 康稀 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 非交互炭化水素 / アズレン / 開殻性 / 芳香族性 / 七員環 |
Outline of Annual Research Achievements |
多環芳香族炭化水素(PAH)は機能性材料の基本単位として注目を集めている。多くのPAH は、ベンゼン環をベースとしたベンゼノイド化合物群である。本研究では、PAH を構成するベンゼン環(6 員環)を5/7 員環のような奇数員環への組み替え(非交互性の導入)に注目した。アズレンとナフタレンの関係に代表されるように、酸化還元能や吸収波長などの性状に変化をもたらす。本研究では、インジウム塩を用いた七員環の形成法を用いて、アズレン誘導体とヘプタレン誘導体の2分子の合成検討を行った。アズレン誘導体は既知化合物から8段階で合成に成功し、ヘプタレン誘導体は2つの七員環を形成した前駆体までの合成経路が確立した。アズレン誘導体はNMR不活性である一方、ESRにおいては活性であり、開殻性の存在が示唆された。 非常に高い酸化還元能を有しており、容易に酸化/還元種へと誘導することができた。二電子還元/酸化体はNMRにより同定し、一電子酸化体については良好な単結晶が得られた。一電子酸化体のX線単結晶構造解析から五員環と七員環を含む主骨格は高い平面性を有しており、速度論的保護を目的に用いたメシチル基は主骨格に対して直交していることが明らかとなった。 当初の分子設計では標的分子の安定化が足りず再結晶が困難であったため、より立体的に保護した新しい分子設計を行った。合成ステップ数が増加したが、標的分子の外部環境に対する安定性が改善し、取り扱いが容易となった。結晶の向上を指向し、置換基がそれぞれ異なる8種類の前駆体合成を行った。ハロゲン置換基を含む2つの前駆体は最終段階で標的分子へと変換できなかったが、標的分子へ6種類の骨格が適用できた。 上記のように、標的分子の合成法の確立および、酸化還元能を明らかにできたため、当初の研究計画に基づいて概ね順調に進展していると判断する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度ではインジウム塩を用いた七員環形成法の確立と、本手法を用いたアズレン誘導体の合成に成功した。標的分子の合成経路の確立の達成は、次年度における標的分子間の相互作用解明の基盤である。標的分子の構造解析は未達成であるが、質量分析から目的物の生成を確認できた。また、標的分子の前駆体および標的分子を銀塩で一電子酸化したラジカルカチオンのX線結晶構造解析に成功し、五員環と七員環が確かに形成されていることを明らかにした。この結果は合成した分子がアズレン誘導体であることを支持している。本研究による分子設計により、不安定で単離困難と考えられてきたアズレン誘導体を比較的安定に取り扱うことができた。 本年度において、構造解析したラジカルカチオン以外に、標的分子を二電子酸化(ジカチオン)と二電子還元(ジアニオン)、一電子還元(ラジカルアニオン)した分子の合成・単離を行うことができた。ラジカルカチオンおよびジカチオンは室温・空気条件下でも高い安定性を示した。また、ラジカルアニオンに関してはおおよその構造決定を行うことができた。 酸化還元特性において実際に酸化/還元種を単離し、それぞれの基礎物性を明らかにすることができたことは、固体材料へ展開した際における重要な知見となる。上記の結果より、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、標的分子のX線単結晶構造解析を行うことができていない。良好な単結晶を得るため、標的分子の置換基および再結晶溶媒を変更する。標的のアズレン誘導体のX線単結晶構造解析を行い、分子の構造を明らかにする。分光学的測定および電気化学的測定、磁気測定から基礎物性について調べ、理論計算を用いつつ物性と構造の相関を明らかにする。 青色の標的分子に対し、黄色のNMR不活性な不純物が得られる。この磁性を有する不純物の構造決定を行う。不純物の構造として、五員環上に水素が付加し七員環上にラジカルが存在する構造を予想している。実際に、予想する分子を合成し、X線単結晶構造解析・UV吸収スペクトル・ESR測定を用いた比較から、不純物の同定を行う予定である。 奇数員環の効果を明らかにするため、2つの七員環で構成されるヘプタレン誘導体についても合成を行う。現在のところ、2つの七員環を形成した誘導体の合成を達成しているが、インジウム塩を用いた七員環の形成の過程における収率が低い(約30%)。インジウム塩の種類や反応溶媒、温度を精査することで、収率の向上を目指す。2つの七員環が形成できれば、置換基の導入及び前駆体のジカチオンまでの合成アズレン誘導体と同様の合成手法が適用可能である。 合成法を確立し、奇数員環への組み換えによる (反)芳香族性の寄与による分子スピンへの影響について明らかにする予定である。
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