2020 Fiscal Year Annual Research Report
単一量子ナノ構造での異常ハンル効果に基づく核スピンの光制御と応用
Project/Area Number |
20J10446
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 壮太 北海道大学, 大学院工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ナノ構造半導体 / 超微細相互作用 / 核スピン分極 |
Outline of Annual Research Achievements |
単一ナノ構造半導体中で超微細相互作用を介してスカラー結合する局在電子スピンと格子核スピンが作るスピン結合系は,量子情報処理に応用できる.このような応用の実現には,電子・核スピン結合系のダイナミクスの十分な理解が必要である.本研究では,ナノ構造中にスピン偏極電子を光注入した際に形成される核スピン分極(NSP)の形成・緩和メカニズムの全容を解明することを目的とし,四極子相互作用が核スピン系のエネルギー構造を支配する自己集合型のナノ構造半導体を用いた光学実験と理論計算から検証を行う. 今年度は,光注入電子スピンと直交する大きなNSP形成(異常ハンル効果)のメカニズムを探るため時間分解測定を行い,NSPが定常値に至るまでに掛かる時間の磁場依存性を調べた.調査の結果,時定数は外部磁場の増加とともに長くなることが判明した.この結果は直観的な理解とも合致し,過去に報告してきた内容とも整合する. 異常ハンル効果とは別に,核スピン揺らぎに起因した電子スピン緩和によって現れる電子・核スピン結合系に3つの安定状態について実験的・理論的な検証を行った.この現象は年度の開始直前に我々が発見し,現象論的モデルから発現メカニズムについて説明した[Phys. Rev. B 101, 245424 (2020)].電子・核スピン結合系が2つの安定状態を持つことは実験的・理論的に知られていたが,発見した3つ目の安定状態はこれらとは全く異なるメカニズムで出現する.本研究では,この3つの安定状態を複数の外部パラメータ(励起強度,励起偏光,外部磁場)を掃引した際に現れる2つの独立したヒステリシスから検出した.電子スピンを介した核スピン揺らぎの核スピン系自身への作用はあまり着目されてこなかったため,この検証はスカラー結合するスピン系の理解に非常に大きな貢献がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,当初の予定通り,Voigt配置かつ低磁場下で観られる光注入電子スピンと直交した核スピン分極の形成過程を調べるための時間分解測定系を構築し,実際に測定を行うことができた.時定数の磁場依存性に関する知見が得られた他,当初の予定とは異なる方針でデータ解析を行った結果,核スピン分極が電子スピンに対して作る核磁場と外部磁場の大小関係という,これまで実験的に報告されていなかった部分が明らかとなった点は特に意義深い. 研究計画を作成した時点において核スピン分極の3つ目の安定状態は発見されていなかったため,この現象について取り扱う予定はなかったが,電子・核スピン結合系のダイナミクスの全容を解明するという研究目的に照らして追求すべきテーマであると判断し,提案モデル基づく理論研究と,それと比較できる実験を実施した.モデルが予言する三重安定性は未だ観測できていないが,3種類の外部条件を掃引した際に得られた結果から第3安定状態の実態とモデルの比較が指針だことは大きな意義がある. 単一ナノ構造で適用できる核磁気共鳴を実施するために必要な特殊なrfスペクトルを効率的に計算するコードの実装が終わり,実験装置の整備も進んでいる. COVIC-19の影響で実験室への立ち入りが制限されたり,関連施設の改修に伴って実験が停止したりと,多くの不都合が生じたが,実験室に足を運べない際には数理モデルの検討や計算コードの実装を行い,実験停止の際には実験系の整備を行うなどして,できる最大限の効率で研究を推進した.
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Strategy for Future Research Activity |
四極子相互作用によって起こる核スピン系の変容について調べるため,rf磁場の(非)共鳴準位を変えながら核スピン分極を測定し,四極子相互作用が支配するの核スピン系のg因子や超微細相互作用のA定数の実効値を調査する.また,個々の準位がマクロな核スピン分極の方向や分極率にどのように寄与するかを調べる.rf回路や光学系の構築を行い,これまで同様に励起子発光スペクトルを解析することでスピン系の探索を行う. また,発見した電子・核スピン結合系の第3安定状態についての理解を深めるため,特に,提案モデルが予言する三重安定性を実証するための検証を行う.定量性に関する議論で不明な点を解消するため,実験的に多数の量子ドットで調査を行う.モデル計算では核スピン系の緩和メカニズムを議論し直すことで,三重安定性の発現条件を再検討する. 3つの安定状態の出現は,スピン制御の実践として検討するノイズフリーな核スピンバスに期待される系の性質とは対極な現象であるため,三重安定性の探索で得られる結果を吟味して実装を考える必要がある.一方で,検討する核スピン分極の3次元光制御については,本研究で行った時間分解測定で得た知見や,最近報告された単一量子ドット中の核スピン系に対する量子ゲート操作を参照しながら実装する.
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