2020 Fiscal Year Annual Research Report
The enforcement of morals and business ethics
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20J10491
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
今井 昭仁 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ビジネス倫理学 / 道徳の強制 / 経営者 / 報酬 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、報酬に関する実際の政策・規制の分析を行った。伝統的にイギリスにおいて経営者の報酬を規律する目的は、「お手盛りの防止」と「インセンティブの付与」の2つに集約されてきた。そのため、まずこの2つの実効性がどのように高められてきたかについて検討した。また近年の動向を検討すると、これらの2つとは異なる規律が見受けられた。この新たな規律について「公正な報酬水準の実現」、「公正な報酬決定手続の実現」、「ESGの促進」(なお、ESGは環境、社会、ガバナンスという企業に重視される要因の英単語の頭文字をとった略語である)の3つに区分した。その上で、これらが規律として徐々に浮上してきた背景について、またこれらが現在もちうる実効性について検討した。これらの特徴を踏まえ、今後の動向を考察したところ、「ESGの促進」は既存の枠組みを大きく変えることなく実行可能であり、今後の規律として最も現実的であると考えられた。一方で、これが必ずしも報酬水準を変えるものではないため、「公正な報酬水準の実現」と「公正な報酬決定手続の実現」を目指そうとする動きも根強いことも示唆された。この内容をまとめ、論文として発表した。 また、本研究で中心的な理論の各説について文献研究を行った。その現代的議論において重要視されている文献に焦点をあてて考察した。 なお、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた。特に学会発表や出張を伴う調査については大幅な制約がかかり、当初の計画から変更を余儀なくされたこともあったが、2021年度は制約も小さくなることが見込まれているため、積極的にその機会を活用し、研究成果に繋げていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、海外動向の研究については、イギリスを取り上げて資料の収集・整理を行い、その経営者報酬の規律の動向を分析した。その成果を2020年度中に論文として発表することができたことから、非常に順調に進んでいるといえる。またこの成果をもとにさらなる考察も進めることができている。現在は、この点について作業を進めているところである。 次に、理論的研究については文献研究を中心に進めた。いくつかの重要文献に着目しながら考察を進めることができた。二次文献等をあわせて考慮してきたところ、いずれの説をとる場合においても、何点か乗り越えるべき課題があることを明確にすることができた。これに基づいて、現在はその解決方法の探索を中心に研究を進めているところである。 さらに、ビジネス倫理学のテキストの執筆担当(1章分)となり、それに着手することができた。担当章に求められる基本的な内容だけでなく、テキスト全体のコンセプトの理解に努めながら作業を行った。こちらもおおむね順調に進んでおり、2021年度中にはテキストが発売となる見込みである。 なお、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受け、学会・研究会等の参加や、出張を伴う調査については当初の計画通りには進めることができなかったが、オンラインツール等の利用を通して可能な限り影響を小さくするよう努めた。 上記の通り、2020年度の研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
経営者の報酬の動向については、2020年度までの研究状況から「ESGの促進」が最も現実的であることを踏まえ、この実効性を高めようとする政策および市場の動向の検討に着手している。経営者の報酬は、固定報酬と変動報酬に分解できる。このうち、固定報酬はその名称の通り、業績にかかわらず一定額が支払われる一方で、変動報酬は期間中に達成した業績によって支払額が増減する。つまり、業績が高ければ高額な、業績が低ければ低額な報酬となる。この変動報酬の一部をESG、とくに環境問題に対して当該企業が果たした責任に応じたものにしようとする動きがある。これは経営者に倫理的な判断や行為をするように促す仕組みの一種である。この点についてイギリスをはじめとする諸外国の動向や、日本の動向について検討を進める予定である。分析はおおむね順調に進んでいるものの、いくつか細かな点で確認すべきことが残されているため、それらを行った上で、論文を執筆し、成果に繋げていく予定である。 理論的研究については、2020年度に引き続き文献の検討が中心となる予定である。研究の最新動向についても随時確認しながら、研究を遂行する。こちらも執筆を進め論文化できるよう、課題解決に向けて柔軟に対応することを予定している。 なお、新型コロナウイルス感染症の影響によって多くの企業の経営者の報酬に修正が加えられている。この点は本研究テーマとも関連があることから、注視し、重要な点については研究に取り込む形で考察を加えたいと考えている。
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