2020 Fiscal Year Annual Research Report
Lipidomics involving selenium based on new speciation strategy
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20J10577
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
高橋 一聡 千葉大学, 大学院薬学研究院, 特別研究員(PD) (40886131)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 生体必須微量元素 / セレン / LC-ICP-MS / スペシエーション |
Outline of Annual Research Achievements |
必須微量元素であり、臨床利用もされるセレンは天然に多様な化学形態で存在することが報告されており、各化学形態に応じて異なる性質を示す。従って、セレンの生物学的評価は化学形態ごとに行うことが栄養学的見地から重要であるといえる。これまで水溶性なセレンに関してはその代謝や生理的性質が明らかにされてきたが、脂溶性なセレンに関しては有効な分析法が存在しないことから、検討がなされてこなかった。そこで高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を接続させたLC-ICP-MSを用いて、脂溶性成分を対象にしたスペシエーション分析を開発することで脂溶性セレンを同定し、その生物学的意義の評価を目指した。 ICP-MSに酸素ガスを主体とした補助ガスを用いて運用し、HPLCをキャピラリーLCとしたキャピラリーLC-ICP-MS を構築し、脂溶性成分の分析を検討した。その結果、親水性相互作用クロマトグラフィーカラム(HILIC)を用いて標準物質であるリン脂質を分析したところ、各化学形態をそれぞれ検出することが可能であると示された。すなわち、この構築したキャピラリーLC-ICP-MSは脂溶性成分の測定に応用することができるといえる。 脂溶性セレンの代謝を解明するうえでは水溶性成分も含めたセレンの包括的な代謝も併せて評価していく必要があるため、上述の分析法の開発と並行してこの評価も行った。セレン源として微粒子状セレンをラットに投与し、その際のセレン代謝について水溶性成分をLC-ICP-MSでの従来法によって分析することで評価した。 またセレン代謝に影響を与える要因としてセレンと生体内で拮抗的に作用するとされる水銀についても検討した。中でも脂溶性の高いメチル水銀に着目し、メチル水銀代謝性細菌を用いて同じく脂溶性の高いセレンの代謝への関与を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、進捗状況及び得られた成果に応じて適宜計画を修正しつつ、順調に進行している。脂溶性成分の分析法開発において、目的とする脂溶性セレンの分析への応用は行えていないが、分析上の脂溶性な標準物質として用いているリン脂質のスペシエーション分析を達成している。そのため、脂溶性セレンを含め他の脂溶性成分を分析する手法の基礎となる手法を作出したといえ、今後の応用が期待できる。 セレン源として微粒子状セレンを用いて行った、水溶性成分も含めたセレンの包括的な代謝評価では、非水溶性な微粒子状セレンと水溶性な無機セレン塩を投与した際では異なる代謝が観察され、水溶性画分における代謝産物に違いが生じる結果を得た。 またメチル水銀代謝性細菌を用いて検討する際には、メチル水銀の代謝に関係するタンパク質などは一部しか解明されておらず、この代謝性細菌の選別には課題が残されていた。そこで本年度は、この検討対象となる細菌についてICP-MSを用いた遺伝子情報に依らないスクリーニング方法を開発した。今後、メチル水銀代謝性細菌を用いて評価を行っていく際には、この選別方法が応用可能であるといえる。 このように本年度は脂溶性セレンに関する分析法の開発と、その代謝に関わる補足的な知見の収集を行った。今後実施する予定である脂溶性セレン代謝物の同定・評価により、これまでに考慮されずにいた代謝物の働きを勘案しつつ本年度収集した知見を評価することができるため、脂溶性なセレンの代謝を中心に生体内セレン代謝の研究について一層の進展が見込まれる。また、これらの補足的に得られている知見についてはそれぞれで英文原著論文を執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
脂溶性成分分析のために開発したキャピラリーLC-ICP-MSを用いて、生体内脂溶性セレンの検出、同定を試みる。脂溶性セレンの分析を達成後、セレン投与ラットにおける各臓器を経時的に分析することで、脂溶性セレンにおける臓器特異性を評価し、その代謝経路を検討する。以上の結果と、前年度までに得られてきた知見を相補的に評価することで、包括的なセレン代謝の解明を目指す。またセレン代謝、特に脂溶性セレンの代謝への影響を及ぼす要因として互いの代謝に相互で影響するとされる水銀代謝の影響を、代謝性細菌を用いて評価することも検討する。
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