2020 Fiscal Year Annual Research Report
モノローグ的倫理と対話的倫理:討議倫理学によるカント批判の再検討を通じて
Project/Area Number |
20J10658
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐々木 尽 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 倫理学 / カント / 討議倫理学 / ハーバーマス / アーペル / 二人称的観点 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ルールや規範が持つ普遍的拘束性が何に基づいているかに応えることである。I. カントによる「規範の普遍性は、誰もが共有する『理性』に基づく」という回答は現代でも一つの有力な立場と考えられているが、J. ハーバーマスやK.-O. アーペルら討議倫理学者たちは、これが独我論的・モノローグ的な立場であり、対話や合意に基づくと考えるべきだと主張している。 2020年度の研究では、二つの立場の間の論争を取扱い、カント(的)倫理学と討議倫理学との共通点と相違点、さらにそれぞれの批判の妥当性や問題点を明らかにした。具体的には、両者は形式主義という点では共通しているものの、実践的判断を下す主体がどのような立場を取るか――二人称的かそれとも三人称的か、すなわち当事者か観察者か――という点で相違することを示した。 カント哲学においては、判断主体=行為主体は誰もが、自問自答するだけで「~すべきである」という規範を正しく認識することができるし、さらにこの「べき」は自問自答した判断主体だけでなく、(同じ状況にあると想定される)すべての主体に妥当するものとされる。この想定は、格率(行為の主観的原理)を普遍化を命じる定言命法に従いさえすれば、主体が(他者との二人称的関係はすべて度外視された)客観的・三人称的観点に立つことができるということを前提としている。それに対して、例えばハーバーマスは、こうした客観的・三人称的・観察者的観点はいわば神の視点のようなものであって、行為主体はそのような立場に現実に立つことはできないと論じる。主体が取ることができるのはあくまで相互主観的・二人称的・当事者的観点である、というのが彼の主張である。 2020年度の研究ではざっと以上のようなことを明らかにしてきた。今後はこの「立場・観点」に関するそれぞれの思想に則して、規範の普遍性の確保の仕方を明確にしていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究では、カント倫理学と討議倫理学との論争を整理するために、両者の主要文献および関連文献を読み解くことをメインの課題としてきた。関連するすべての文献に当たることができたわけではないものの、主要文献や一部の関連文献には当たることができているため、おおむね順調に進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究で明らかになった、カント倫理学と討議倫理学の相違点としての「立場・観点」をさらに掘り進めていく予定である。これまでの研究ではあくまで二つの「倫理学・実践哲学」的な側面のみを扱ってきたが、カントだけでなくハーバーマス・アーペルも、この「立場・観点」が理論哲学的な、すなわち真理や認識に関する側面にも想定されると主張する。そのため今後の研究では、まずは両者の理論哲学的な側面において「立場・観点」がどのように機能しているかを明らかにし、理論哲学・実践哲学の二つの方向から、両者の論争を整理していく予定である。
|
Research Products
(3 results)