2020 Fiscal Year Annual Research Report
電圧印加による複合膜界面における磁気層間結合の制御手法の確立
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20J10749
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小泉 洸生 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 垂直磁気異方性 / 導電性酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、導電性と垂直磁気異方性の両方を有するNiCo2O4(NCO)の磁気特性の調査と、導電性スピネル上への垂直磁気異方性を有するコバルトフェライト(CFO)の作製を中心に研究を行った。 前者については、NCOの磁気異方性の温度変化を調査することで、室温では垂直磁気異方性を示すが、低温では円錐磁気異方性に変化していることを発見した。またNCOは、カチオン分布がその作製条件に強く依存することが知られている。そこで、カチオン分布の異なる試料を用いることで垂直磁気異方性から円錐磁気異方性に転移する温度並びに、キュリー温度がその組成に依存することを見出した。さらに、数値計算を行うことで、この円錐磁気異方性がカチオンのディスオーダーによるもので、四面体サイトのNi3+に起因していることも示した。円錐磁気異方性は、六方晶フェライトなどの絶縁体でしばしば観察されているが、導電性を示す物質では、ほとんど報告例がなく今後の研究の発展が期待される。 界面磁気異方性と磁気層間結合を分離するためには、絶縁性の垂直磁化膜と導電性の面内磁化膜を組み合わせた系が適しており、垂直磁気異方性を有するCFOを作製するためには、引っ張り歪を導入する必要がある。導電性スピネルとしてLiTi2O4やFe3O4などを緩衝層とすることを試みたが、CFOの作製条件が高温、酸素雰囲気であるため、緩衝層を構成するイオンが CFO 中に拡散してしまい、強い垂直磁気異方性を示すCFOを緩衝層上に作製するには至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、導電性と垂直磁気異方性の両方を有するNCOの作製と、導電性薄膜上への垂直磁気異方性を有するCFOの作製を中心に研究を行った。 NCOの方では、これまで見つかっていなかった、磁気異方性の温度変化やそれに伴うスピン再配列などの新規性を有する研究成果が得られるとともに、数値計算を用いてこれらの起源についても明らかにすることができた。 導電性スピネルについては、垂直磁気異方性を有するCFOの作製には至っていないが、ノウハウが着実に蓄積されてきている。特に最近取り組み始めたバナジウムスピネル系は、これまで薄膜の作製報告は無かったが、導電性を有する薄膜までは既に作製には成功しており、格子定数などからもこれまで試してきた中では、最も有望であると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度には、これまで蓄積したノウハウを最大限に活用し、研究の目的である磁気層間結合への電圧印加を行う。 導電性と垂直磁気異方性を有するNCOにおいては、低温で円錐の磁気異方性が発現していることが確認されたので、今後は円錐磁気異方性に関連して電気伝導特性に変化が見られないかを調査する。また、NCOと絶縁性面内磁化膜を用いた構造において、磁気層間結合を評価するためにはKerr効果などの絶縁層のみの磁化過程を評価できる手法が必要であるため、この手法の確立並びに電圧印加デバイスの作製を目指す。 導電性スピネルについては、バナジウムを含むスピネルにおいて電気伝導が確認されているものがいくつかあるため、これらを試すことで、導電性スピネル上に垂直磁気異方性を有するコバルトフェライトの作製を行い、電圧印加デバイスの作製を目指す。
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