2020 Fiscal Year Annual Research Report
地下水中における汚染輸送現象の解明と簡易的な透水性分布の現場計測手法の開発
Project/Area Number |
20J10801
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
倉澤 智樹 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 溶質輸送 / 透水係数 / 単孔式トレーサ試験 / 現場計測 / 室内実験 / 数値解析 / 分散長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,室内実験と数値解析を連携し透水係数の空間分布と溶質拡大現象の関係性を評価すること,ならびに,透水係数の空間分布を現場で簡易計測可能な手法の単孔式トレーサ試験の適用性を調査することの2つを目的としている. 1つ目として,今年度は成層モデルに対し,室内実験で拡大現象の定量化を進めた.この実験で,成層モデルの層厚や透水係数のばらつきに応じて,拡大現象の指標パラメータである分散長が増加する点を明らかにした.また,分散長などのパラメータ推定には,溶質プルームの時系列的な変動状況を計測する必要がある一方,プルームの低濃度部が計測機器の計測下限を下回ったとき,不計測部が生じる.このとき,推定値の信頼性が低下する可能性があり,この点を数値解析的に評価した.結果的に,溶質の輸送距離や計測下限に応じて,分散長が過小推定されることがわかった.実務に主眼を置くと,汚染拡大範囲の特定には物質輸送モデリングが頻繁に利用される.一方,現場の透水係数分布を詳細にモデル化できる場合は少なく,一般に解像度の低下したアップスケールモデルが利用される.このため,アップスケールが溶質の空間的進展へ与える影響の検討は重要であり,室内実験と数値解析を連携し調査した.この結果,アップスケールに応じて,透水係数のばらつきが低下し,空間的進展の強度は過小推定された. 2つ目の単孔式トレーサ試験では,鹿児島県喜界島の現場で予備試験・本試験を実施した.この試験は,既知濃度のトレーサを1つの観測井に投入し,希釈状況から透水係数を含むパラメータを推定する方法である.まず,予備試験では周辺環境の整備や資材搬入方法の確認,実験工程の決定を進めた.その後,本試験では予備試験で確立した工程にて実験を進め,理論的な先行研究と類似したトレーサの希釈状況を確認した.現場で単孔式トレーサ試験を実施する上で,基礎データを取得できたといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ラボスケールの溶質輸送実験を用いることで,成層地盤モデルに対し水溶性物質の拡大現象を定量評価することに成功した.また,これらの実験を進める中で,拡大現象の指標パラメータである分散長の推定に関する信頼性が,計測方法の計測下限に大きく依存することがわかった.この点を詳細に調査するため,数値解析的に評価し,計測下限とともに分散長が過小推定される点を明らかにした.さらに,同時に進めていた溶質の空間的進展に与えるアップスケールの影響評価についても実験と数値シミュレーションを連携することで評価し,アップスケール度合いと空間的進展の強度との関連付けに成功した.加えて,現場での単孔トレーサ試験では,今年度,予備試験の実施までを予定していたものの,本試験に着手することができ,現場試験にかかる基礎データを取得することに成功した. 上述のように,ラボ実験・数値解析的な検討においては予定通りの成果を得ており,また,計測下限と分散長の信頼性に係る調査を含む,副次的な研究成果も創出することができた.また,上述のように現場試験においては,予定よりも大幅に進展している.以上を統合すると,期待以上の研究の進展があったと自己評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
透水係数の空間分布と溶質拡大現象の関係性の評価において,昨年度は,主に成層地盤モデルに軸足を置き,検討を進めてきた.この研究の中で,透水係数の差異が大きい場合,溶質の空間的進展が大幅に増加する点を確認した.この点は,先行研究においても報告されており,地下水質の管理上,問題となる可能性が高いといえる.そこで今後は,透水係数が大幅に変化する地盤条件において,実験・数値解析的に評価を進める.また,現場での単孔式トレーサ試験においては,昨年度に基礎データを取得できたものの,試験方法の改良と本試験の使用にかかる汎用性・妥当性を調査する必要がある.そのため,鹿児島県喜界島に設けた実験フィールドにおいて試行錯誤的な試験を継続的に実施する予定である.これにより,トレーサ初期濃度や試験の実施時間,濃度計測機器の設置位置を含む試験方法に関わる項目について最適化を目指す.また,昨年度使用した観測孔とは異なる地点で試験を遂行し,本手法の汎用性の確認を実施する.さらに,異なる試験方法で目的パラメータである透水係数を計測し,単孔式トレーサ試験と同様の結果が得られるかを確認し,妥当性を検証する.
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Research Products
(8 results)