2020 Fiscal Year Annual Research Report
室温原子層堆積法による複合酸化物超格子ガスバリア膜の創生
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20J10869
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
吉田 一樹 山形大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 酸化膜 / 原子層堆積 / ガスバリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はこれまで未踏であったラジカル励起型の室温原子層堆積プロセス(室温ALD)を用いた複合酸化物超格子による水蒸気ガスバリア膜の実現である。水蒸気ガスバリア膜は有機エレクトロニクス分野においてデバイスの長寿命化に必要な保護膜である。室温ALDを用いて耐熱性のないフィルム上に異なる金属酸化物ナノ薄膜を積層することで優れたガスバリア膜の形成を実現する。 本年度は酸化アルミニウムと酸化亜鉛の組み合わせによる複合酸化物超格子の形成に取り組んだ。フィルム基板上に各酸化膜を交互に成膜し、積層数を2、4、10と変化させたところ積層数の増加に伴うガスバリア性能改善傾向を確認することができた。これによって異種酸化膜を積層することが室温ALDにおいてもガスバリア性能の改善に有効であることが示唆された。ガスバリア性能と積層膜の表面形状に相関があると予想し、原子間力顕微鏡を用いて表面観察を行い平均表面粗さを測定した。成膜後のサンプルは表面粗さがわずかに大きくなったが、積層数と表面粗さには相関がみられずガスバリア性能の改善要因がこれ以外にあることが示唆された。フィルムサンプルと同時に成膜したシリコン基板サンプルの断面を透過電子顕微鏡によって観察したところ積層膜とした場合であっても酸化亜鉛は結晶化しており、界面層を生じることなく積層膜が形成されていることが分かった。他方で単純な積層のみではアモルファス状態のアルミナの結晶性に変化が見られなかった。これについては次年度において原料ガスの複合吸着を利用しての結晶性の制御を試みる。 複合酸化物超格子形成時の表面反応評価に対する取り組みとして水晶振動子マイクロバランス法を用いて成膜表面の質量変化をその場観察した。アルミナ、酸化亜鉛成膜時における原料ガス吸着と表面酸化時の質量の増減比から表面反応を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りアモルファス金属酸化膜と微結晶化した酸化亜鉛を室温原子層堆積法(室温ALD)によって積層してフィルム上に複合酸化物超格子を形成した。本年度はアモルファス層として主にアルミナを使用し、酸化亜鉛膜との複合によって水蒸気透過率1.4× 10-4 g/ m2/ dayのバリア膜を得た。目標とした10-5 台の水蒸気透過率は得られてはいないが積層によるガスバリア性能の向上が可能であるという知見が得られた。これらの成果をまとめた論文は査読付き論文誌IEICE TRANS. ELECTRONより採択通知を受けており、現在印刷中である。 室温ALDによる酸化膜形成プロセスの改善として酸化時にUVを照射することでアルミナの成膜速度と屈折率改善効果が得られた。この原因を詳細に分析することで膜質改善に必要な要素を抽出することが可能であると考える。また、アルミナと酸化亜鉛の複合膜中に酸化チタン薄膜を加えて積層したところ、膜厚を小さくしても同程度の水蒸気透過率が得られたことから、ガスバリア性能改善のための可能性が新たに示されたと考えている。 以上のような成果がこれまでに得られていることから本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は積層数について詳細な検討を行い、各層の最適な膜厚についても調査する。実験方法としてSUS基板上に多層積層膜を形成して塩酸に対するバリア性能を評価する。塩酸のような強い腐食性の溶媒をブロックできる膜であれば高いガスバリアを示すと予想できるため、良好な耐塩酸バリア性能が得られた膜を樹脂フィルム上に形成し水蒸気透過率測定による評価を行う。上記実験で形成した積層膜の断面をTEM観察し、他の積層膜と比較によってバリア性に差異が生じる要因について明らかにする。 今年度成果であるUVを用いた室温ALDでアルミナのサイクル当たりの成長膜厚と屈折率の改善効果についてそのメカニズムを今後明らかにする。現在UV照射による光励起刺激で成膜表面からの水分の脱離を一つの原因として予想している。次年度においてはUVを照射した際の成膜表面での反応を超高感度赤外吸収分光装置でその場観察し、成膜表面の質量変化を水晶振動子マイクロバランス法で測定することで、そのメカニズムを明らかにする。これによって室温原子層堆積プロセスにおける膜質制御に必要な要素を抽出することが可能となると考えている。
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Research Products
(5 results)