2020 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカルな電子状態が誘起するネルンスト効果の解明と高性能層状熱電材料の開発
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20J11036
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
横井 滉平 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ノーダルラインフェルミオン / ネルンスト効果 / ベリー曲率 / 圧力依存性 |
Outline of Annual Research Achievements |
波数空間のリングまたは線上で線形なバンド分散が縮退する場合、その縮退構造を線ノード構造といい、その分散関係で記述される電子をノーダルラインフェルミオンという。この準粒子はディラック・ワイル電子を拡張したものと見なせ、縮退領域の形状や大きさといった、ディラック・ワイル電子にはない自由度を有していることから、特有の性質を持つことが期待されている。非磁性物質PbTaSe2はノーダルラインフェルミオンを有することが知られている。申請者のこれまでの研究から、そのネルンスト効果が高磁場で飽和する、異常ネルンスト効果に似た振る舞いを示すことが明らかとなっている。この現象とノーダルラインフェルミオンの間に関係があることが期待されるが、その詳細はわかっていなかった。 今年度は、非磁性トポロジカル線ノード半金属PbTaSe2における特異な磁場依存性を示すネルンスト効果とノーダルラインフェルミオンの関係性について調べることを目標に、圧力印加によって電子状態を変化させ、ネルンスト効果の磁場依存性がどのように変化するかを調べた。圧力印加前後での線ノード構造の変化を踏まえると、ネルンスト効果が高磁場領域で飽和するような振る舞いを示したのは、線ノード構造を反映した特有の現象である可能性が高まった。特に、ディラック・ワイル半金属のネルンスト効果の例を踏まえると、線ノード構造でもバンド縮退線付近ではベリー曲率が存在しており、そのベリー曲率がキャリアの横方向の異常速度として反映された結果現れた現象の可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、PbTaSe2の圧力下でのネルンスト効果測定系の開発に成功し、ネルンスト効果が電子構造の変化とともに大きく変化することを実験的に明らかにすることができた。その結果から、本物質の特異なネルンスト効果は、ディラック・ワイル半金属と同じくベリー曲率によって理解できる可能性が示すことに成功した。ノーダルラインフェルミオンがどういった特性を持つのかは実験的にはわかっておらず、今回の研究からノーダルラインフェルミオンもディラック・ワイル電子と同様の物理を適用することが可能であることが示されたのは大きな進展であると考えている。一方で、ネルンスト効果がベリー曲率による異常速度の獲得によって生じたものである場合、ホール効果などでも同様の特異な効果が現れると予想され、ホール効果についての検証も行う必要がある。圧力下での電気輸送現象の測定については本年度内に完遂することができなかった。進展が得られたものの、一部課題が残ったため、おおむね順調には進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られたネルンスト効果の圧力変化については結果をまとめ、公表する準備に取り掛かる。一方で、特異なネルンスト効果がノーダルラインフェルミオンのベリー曲率によるものである場合、ホール効果においても同様に作用し、磁場依存性に特徴が現れると予想される。今後は圧力下での電気伝導率測定にも取り組み、ホール効果の圧力変化からも検証を行う。また、類似した電子構造を持つPbTaS2やInTaSe2といった物質でもネルンスト効果を調べ、本年度得られた結果がノーダルラインフェルミオンに普遍的な現象なのかについての検証も行う。当初の予定のFe3GeTe2の異常ネルンスト効果については計画を変更し、PbTaSe2のベリー曲率誘起の輸送現象についての研究を中心に今後も研究を行う。
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