2020 Fiscal Year Annual Research Report
植食性昆虫における落下行動の進化に寄主植物が与える影響
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20J11072
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松原 慧 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 防衛行動 / ハムシ科 / 植物構造 / コスト |
Outline of Annual Research Achievements |
植食性昆虫における落下行動の進化に、寄主植物の生活型(木本植物か草本植物)が及ぼす影響を明らかにするために、様々な植食性昆虫の落下行動を示す頻度を調査した。 野外の寄主植物上に見られた植食性昆虫に捕食者を模した刺激を与え、その際の防衛行動を観察した。特に、鞘翅目ハムシ科の落下行動に注目した。2016年から本年度までの観察データを集計し解析を行った。合計23種の幼虫の防衛行動を観察し、落下行動を示した幼虫個体の割合は、木本植物を利用する個体では2.2%だったのに対し、草本植物を利用する個体では36%だった。つまり、木本植物を利用するハムシよりも草本植物を利用するハムシの方が落下行動を示す割合が高いことが明らかになった。一方、合計112種の成虫の防衛行動を観察し、落下行動を示す割合に寄主植物の生活型の影響は検出されず、いずれも約40%の個体が落下行動を示した。また、成虫では、落下行動を示した後に地面に着地する前に飛翔に転じる行動が観察された。これらのことから、ハムシ幼虫の落下行動の進化に寄主植物の生活型が影響を及ぼしていることが明らかになった。また、寄主植物の生活型の影響の大きさは、ハムシ類の成長段階によって異なることが示唆された。以上の研究成果は、国際学術雑誌に掲載された。 また、膜翅目ハバチ科5種の幼虫、鱗翅目6種の幼虫、鞘翅目ゾウムシ科6種の成虫における落下行動を野外で観察した。その結果、ハバチ類幼虫において、木本植物を利用する個体は、草本植物を利用する個体よりも落下行動を示す頻度が低い傾向が見られた。ハバチ類幼虫以外の分類群においては、そのような傾向は見られなかった。また、鱗翅目幼虫の一部では、落下行動を示した後に吐糸を利用してぶら下がる行動が観察された。分類群によって、寄主植物が落下行動に及ぼす影響の大きさは異なると考えられ、各群についてさらなる実験が必要とされる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していたハムシ類の落下行動に寄主植物が及ぼす影響については十分な量のサンプリングを行うことができた。その結果で得られた知見は、国際学術雑誌に掲載されるに至った。一方で、ハムシ類以外の植食性昆虫の防衛行動の調査は、ごく一部しか行うことができなかった。新型コロナウイルスの感染拡大により、移動が厳しく制限されたため、予定していた野外調査の十分に行うことができなかった。また、同様の理由から、2020年度に予定されていた国際昆虫学会の開催も延期となり、参加できなかった。さらに、ドイツに渡航して現地の研究者から測定技術を学ぶ予定も中止となった。 以上から、全体的には研究の進捗はやや遅れているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
鱗翅目幼虫と膜翅目ハバチ科幼虫の落下行動に注目して野外調査を行う。ハムシ類の調査の結果から、寄主植物が落下行動に及ぼす影響は、寄主植物から離れることに伴うコストとリスクと密接な関係があることが示唆された。鱗翅目幼虫の一部は、吐糸を用いてぶら下がることによって、落下に伴うコストを軽減させることが知られている。したがって、鱗翅目幼虫ではハムシ類幼虫とは異なるパターンが検出される可能性がある。2021年度は、特に、鱗翅目幼虫の落下行動と吐糸を用いてぶら下がる行動に寄主植物が及ぼす影響について調査を進める予定である。
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