2020 Fiscal Year Annual Research Report
医薬品のプロセス開発を指向したリチウムビナフトラート触媒による新規不斉反応の開発
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20J11188
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
浅野 聡文 熊本大学, 大学院薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 有機化学 / 触媒化学 / 不斉反応 / リチウムビナフトラート / 1,2-付加反応 / 連続反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機リチウム試薬は、炭素-炭素結合生成における強力な手法として古くから利用されてきた重要な反応剤の一つである。しかしながら、その高い反応性から精密な反応制御が必要な不斉合成への利用は、従来困難であると考えられてきた。一方近年、機器分析技術や計算機科学の発達により、有機リチウム試薬の溶液中での様々な会合状態が明らかとなってきている。 このような背景のもと、本研究課題では、実験化学・機器分析科学・計算機科学を総動員し、リチウムビナフトラート触媒と有機リチウム試薬が、溶液中で形成する複合体を精密に制御し、高難度とされてきた不斉反応や連続反応の実現を目指した。 初年度にあたる令和2年度は、配位子によるフェニルリチウムのアセトナフトンへの不斉1,2-付加反応の検討を行った。様々なビナフトール誘導体を合成し配位子として反応に適用することで、最大74%のエナンチオ選択性を得ることに成功した。さらに、本配位子の使用を触媒量へと減じるべく溶媒や添加剤、反応操作に関する網羅的検討を行い、配位子を準触媒量としても30%のエナンチオ選択性を獲得することに成功した。本結果は、これまで困難であった有機リチウム試薬の触媒的な不斉1,2-付加反応の開発の端緒となる成果であり、不斉合成におけるリチウム求核剤の新たな活用法を切り拓くものであると考える。この他にも、申請者がこれまでに開発してきたアルドール-Tishchenko反応において、計算機科学によってその遷移状態のエネルギーを算出し、本反応の詳細な反応機構を示した。本成果は、学会発表を通じて公表を行い、加えて一件の学会賞を受賞した。さらに、本知見を利用することで、二重アルドール-Tishchenko反応を開発し、最大で5連続の不斉中心を一挙に構築しうる連続反応へと展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまで反応制御が困難とされてきた有機リチウム試薬について、独自に開発したリチウムビナフトラート触媒がその制御に有効であるという知見を得ることに成功した。これ以外にも、アルドール-Tishchenko反応における詳細な反応機構解析や連続反応への展開にも成功した。これらは、全研究計画のうち約6割に相当している。令和2年度は、研究成果の論文化こそできなかったものの、学会における研究成果の発表や学会賞の受賞など、今後の研究の進展に大きな期待のできる研究成果を得ることができたため、順調に研究が進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、当初の研究計画に従い研究を実施していく予定である。令和2年度に得られた結果を基盤として、リチウムビナフトラート触媒の有用性を最大限引き出すべく、研究を継続していく。不斉1,2-付加反応においては、リチウム求核剤の発生法に関する検討や配位子の最適化、計算機科学を駆使した遷移状態の解析によって、エナンチオ選択性の改善を図る予定である。加えて、本反応の基質適用範囲や本反応を活用した生物活性物質の不斉全合成に着手し、反応の有用性を明確にしていく。また、二重アルドール-Tishchenko反応に関しては、その反応機構の詳細を実験化学および計算機科学の両側面から明らかとしていくとともに、得られた研究成果の公表に向けて積極的に学会発表を行っていく。
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