2020 Fiscal Year Annual Research Report
A Systematic Reading of Levinas's Philosophy with a Focus on "Time"
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20J11222
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
石井 雅巳 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | レヴィナス / 現象学 / フランス哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスを主たる対象とし、第一の主著『全体性と無限』(1961)を経て、第二の主著『存在の彼方へ』(1974)に至るまでのレヴィナス哲学を、〈時間〉という観点から統合的に解釈し直すことを目的としている。その際本研究は、 (1)記述分析の方法として現象学的時間論を検討しつつ、(2)反ヘーゲル主義の観点から過去を、(3)倫理的関係を巡る問題から現在を、(4)エロス論の時間論的読解から未来の位相を考察するという四つの課題を遂行することで、研究目的の達成を目指している。 本年度は、 上記概要の課題のうち、(2)および(3)の研究課題に取り組み、それぞれ査読論文として成果を残すことができた。 (2)の成果は、「レヴィナスにおける倫理の時間性について――自我と他者の先行性とその解釈」(『現象学年報』vol. 36)であり、レヴィナス哲学の中心的なテーマである他者との倫理的関係のうちに潜む前提関係を精査することで、自我と他者がいかなる時間的・順序的な規定のもとで語られているかを明確化することができた。 また、(3)の成果は「レヴィナスにおける反-歴史論の展開と変遷」(『倫理学年報』第70集)であり、中期レヴィナスによる歴史批判が倫理や繁殖性といった主題と緊密に連携していることを示したのち、後期の著作ではレヴィナスが歴史記述が抱えてしまう暴力性に警戒しつつも、それでもなお過去や歴史との肯定的な関係を模索していたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記概要の課題のうち、(2)および(3)の研究課題に取り組み、それぞれ査読論文として成果を残すことができた。 (2)については、当初2020年度日本哲学会大会の公募シンポジウム「現代フランス哲学における「歴史論」――「歴史記述」の存在論的・倫理的意義をめぐって」にて発表する予定(審査通過済み)であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により、シンポジウムが中止となり、発表する機会を失ってしまった。そこで、当初の原稿を推敲して日本倫理学会の『倫理学年報』に投稿したところ、査読に通過した(論文「レヴィナスにおける反-歴史論の展開と変遷」)。本論文は、レヴィナスにとって歴史やそれがもつ暴力は、批判すべき全体性の単なる一例どころか、倫理と緊密に結びついた重要な関心事であったことを示した上で、レヴィナスが歴史記述による暴力に警戒しつつも、過去や歴史との肯定的な関係を模索していたことも明らかにすることで、「過去」に関するレヴィナスの立場を多角的に検討した。 また、(3)は、既に昨年より段階的に進めてきた課題であり、2019年の11月に日本現象学会にて報告していたものを推敲して学会誌である『現象学年報』に投稿し、論文「レヴィナスにおける倫理の時間性について──自我と他者の先行性とその解釈」に結実させることができた。この論文では、「順序」や「前提」というこれまであまり注目されてこなかった観点から他者との倫理的関係に光を当てることで、テクストの難読箇所の解明だけでなく、倫理的関係にとって求められる規定を明らかにすることにも貢献した。 以上のとおり、本研究の現在までの進捗状況は、当初の期待通り研究が進展しているものと言える。今後も継続的に査読論文を投稿し、研究計画の実現を図りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、残りの(1)記述分析の方法として現象学的時間論の検討と、(4)エロス論の時間論的読解から未来の位相の考察という課題に取り組むが、既に(4)については2021年度日本哲学会大会で個人研究発表をすることが決定している(審査通過済み)。レヴィナスのエロス論は、しばしば家父長的な記述であると批判されてきた。本研究ではフェミニズム側からの批判を受け止めたうえで、繁殖性と呼ばれる主題を、過去の過ちが赦され、新たな私が誕生するという主体性論として読み直すことで、改めてエロス論を未来という視座から読解することを目指している。
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