2020 Fiscal Year Annual Research Report
固体界面における高分子鎖の凝集状態・熱運動性に基づく接着界面の設計
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20J11374
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
種子田 英伸 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 吸着層 / 吸着エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
異種固体の界面において高分子は良溶媒にも不溶な吸着層を形成することが知られていおり、吸着層の理解は接着界面を設計する上で重要な因子となると考えられる。 モデル系としてポリスチレン(PS)とSiウエハーを用いた。分子力学計算に基づき評価した水素終端Si(SiH)および自然酸化層を有するSi(SiOx)上におけるPSの吸着エネルギーは-77.5および-54.8 kJ・mol-1であった。これは、PS鎖はSiOx表面よりSiH表面に強固に吸着することを意味する。PS吸着層は各基板上にスピンコート法に基づき作製したPS薄膜を423 Kで種々の時間、熱処理の後、クロロホルムで洗浄することで作製した。 原子間力顕微鏡観察に基づきPS吸着層の形成過程を評価した。SiH上のPS(PS/SiH)の場合、tannに依存せず均一な形態が観察された一方で、SiOx上のPS(PS/SiOx)の場合、海島構造および共連続構造を経て均一な吸着層が形成された。これらの結果は、吸着エネルギーの大きいPS/SiHではスピンコート過程における非平衡性の高いコンフォメーションを維持したまま吸着している一方で、PS/SiOxでは吸着エネルギーが小さいために凍結されたコンフォメーションを緩和し、吸着する必要があったと考えることで説明できる。 エリプソメトリーおよびX線反射率測定に基づき、PS吸着層の厚さの時間発展を評価した。PS/SiHおよびPS/SiOxのいずれの場合でも吸着層厚は熱処理時間の増加とともに厚化し、ある時間で一定値に達した。一定値に達する時間は基板の吸着点がPS鎖に占有されるのに要する時間と解釈することができる。PS/SiOxの一定値に達する時間はPS/SiHのそれと比較して有意に長かった。この結果は、吸着層を形成するために必要な界面分子鎖の形態変化の程度が吸着エネルギーに依存することを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は当初の目的に従って、吸着エネルギーの異なる基板を用いた高分子吸着層の調製、原子間力顕微鏡に基づく吸着層形成に伴う形態変化およびX線反射率測定に基づく吸着層厚の時間発展の評価を行った。 その結果、吸着層形成に伴う形態変化から、吸着エネルギーの大きい基板上において高分子鎖は熱処理時間に依存せず面内にほとんど均一な吸着層を形成する一方で、吸着エネルギーが小さい基板上では海島構造および共連続構造を経て均一な吸着層を形成することを明らかにした。さらに、吸着エネルギーが大きい基板において、高分子鎖は吸着エネルギーが小さい基板と比較して、基板表面の吸着点をより速く占有することが分かった。現在、学術論文として投稿準備中である。COVID-19の影響によって研究への取組時間が例年と比較して制限された影響はあったが、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、吸着層の形成が高分子薄膜の接着・剥離強度に及ぼす影響について検討する予定である。高分子薄膜の剥離強度は表面・界面物性解析装置(SAICAS)に基づき評価する。具体的には熱処理時間を変え、吸着層の厚みと高分子薄膜の剥離強度の相関を明らかにする。 また、より現実系に近づけるために代表的な熱硬化性接着剤であるエポキシ樹脂についても取り組み、接着界面における分子鎖凝集状態と接着強度の相関について検討する予定である。さらには多湿下における接着界面の変化についても研究を進める。
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