2020 Fiscal Year Annual Research Report
スピン・軌道相互作用により変調された半導体量子閉じ込め場中正孔のスピンテクスチャ
Project/Area Number |
20J11391
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
東条 樹 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 正孔 / スピン・軌道相互作用 / IV族半導体 / SiGe二元合金 / 二次元量子井戸 / Rashba効果 / Dresselhaus効果 / スピンテクスチャ |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度において、我々は(001)面二次元二元合金量子井戸系のポテンシャルを対称性に基づいて分解し、内因性スピン・軌道相互作用(SOI)およびDresselhaus-SOIの定式化に成功した。この定式化をもとに拡張k・p摂動論を適用し、得られた固有状態をもとに有効磁場およびスピンテクスチャを算出した。結果として、構造反転非対称性(SIA)およびバルク反転非対称性(BIA)の共存による系の回転対称性の低下、および系の鏡映対称性による特定領域におけるスピン・運動量ロッキングの表出を見出した。さらに我々は重い正孔(HH)の固有状態からBerry曲率を算出し、対の定理の成立を示すことに成功し、加えてRashba-SOIによるトポロジカル相転移の表出を見出した。このBerry曲率をもとにBerry位相のエネルギー依存性を算出し、そのステップ性および2π単位の量子化を明らかにした。加えてこのエネルギー依存性を熱平均することで、Berry位相の温度依存性を算出し、分布関数の指数関数的減衰の効果による平滑化効果を見出した。これらの特徴的なBerry位相をより簡便に統一的に記述すべく、『カウンティングモデル』を提案した。一方、量子面方位依存性については、令和元年度までに明らかにした(001)量子面に対する摂動行列をもとに、unitary変換を介して(110)、(111)量子面に対する摂動行列を導出し、有効磁場およびスピンテクスチャの算出に成功した。加えて、Berry曲率を算出し、各面方位におけるk-1次項の効果の特徴を明らかにした。令和2年度ではこれらの内容をもとに、2本の査読付き英語論文の発表、ならびに国内3件および国際2件の学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度では、Dresselhaus-SOIの定式化およびSOI存在下における3種正孔の電子状態、有効磁場分布およびスピンテクスチャといった物理量の算出を計画していたが、無事完遂することができた。加えて、RashbaおよびDresselhaus-SOIが共存する場合についても検討を進め、系の対称性の変化およびスピン・運動量ロッキングの表出を明らかにできた。トポロジカルな物性についても、Berry曲率、エネルギー依存Berry位相、および有限温度におけるHall伝導率の算出を計画していたが、おおむね成功した。そこからさらにBerry位相の温度依存性を検討し、エネルギー依存性との関連性について明らかにできた。結晶面方位については、(001)量子面に対する摂動行列、および(001)量子面から(110)、(111)量子面へと変換するunitary行列を求め、各面方位に対する摂動行列を得ることを計画していたが、いずれも成功し、具体的に電子状態およびスピン特性について議論できた。令和2年度では、2本程度の英語論文執筆および3回程度の学会発表を予定していたが、最終的にそれを上回る2本の査読付き英語論文発表ならびに国内3件および国際2件の学会発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度までの研究により、RashbaおよびDresselhaus-SOIが共存する(001)面SiGe量子井戸の重い正孔における電子状態、スピン特性、およびBerry位相の特徴を明らかにした。これに引き続き令和3年度では、両SOIの強度比変化、および他正孔・他量子面方位への拡張に取り組む。また、正孔におけるBerry位相をより深く議論するため、通常は無視されるサブバンド間遷移を考慮した拡張Berry位相を提案し、その検討を進める。量子面方位については、令和2年度までの研究により、(001)量子面においてはRashbaおよびDresselhaus-SOI双方の定式化が完了している。一方、(110)、および(111)量子面においては、Rashba-SOIの定式化および解析が完了した。令和3年度ではこれに引き続き、(110)、(111)量子面におけるSOIの解析に取り組む。(001)量子面に対するSOIの摂動行列、および(110)、(111)量子面へと変換するunitary行列はすでに定式化を終えているため、これをもとに(110)、(111)面二次元量子井戸系における摂動行列を求める。研究に平行してこれらの成果を広く公表すべく、4回程度の学会発表および2本程度の英語論文執筆を予定している。
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Research Products
(11 results)