2020 Fiscal Year Annual Research Report
筒状炭化水素と極性回転子からなる外場応答性動的超分子固体の開発
Project/Area Number |
20J11478
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福永 健悟 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 大環状芳香族分子 / キラリティ / ガス吸着 / 多孔質材料 / X線回折 |
Outline of Annual Research Achievements |
大環状芳香族分子は中心部に空孔を有する特異な分子構造を持っており,空孔部分に他の分子を内包するホスト分子として優れている.本研究は新たな大環状芳香族分子を設計・合成することによりゲスト分子の固体内配列や動的挙動を制御し,特異な物性の発現を目指すものである. 新たなホスト分子としてナフチレンを構築単位としたキラルな大環状芳香族分子の合成・精製手法を確立した.これらの手法は,応用に向けて開発したものであり,大量合成も可能であった.単離した分子について単結晶X線構造解析によって分子構造を明らかにした.また,結晶中で大環状構造の空孔部を揃えてカラム状に積層した一次元細孔を形成することを見出した.この一次元細孔を有する多孔質構造は結晶内の溶媒分子を取り除いても維持されることを明らかとした.さらに合成した分子の結晶粉末を簡易に調製する方法を確立した. 窒素ガスを用いた吸着実験により一次元細孔は窒素ガスの吸脱着に利用可能であることを確認し,比表面積などの基礎的なガス吸着物性を明らかにした.放射光を利用した in-situ 粉末 X 線回折実験によりガス吸着の過程を追跡し, Rietveld 解析により吸着された窒素分子の位置を原子単位で決定することに成功した.その結果,細孔内で窒素分子がキラルに配列されていることを明らかとした. 以上のように本研究ではキラルな空孔を有する特異な結晶性多孔質材料を構築し,窒素分子を空孔内部でキラルに配列させることが可能であることを見出した. この成果は Chemistry An Asian Journal 誌に掲載された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,以下に示す3つの研究項目を段階的に実施する計画であった.(項目1) 会合の基礎的理解,(項目2) 固体中における構造と動的挙動,(項目3) 固体中における物性評価.当初,2020年度は項目1及び2に注力する計画であったが,実際には項目2の固体中における構造と動的挙動の解明に主眼を置いて検討を進めた. 新たにキラルな大環状芳香族分子を設計・合成し,単結晶X線構造解析を用いて固体中での分子構造やカラム状に積層したパッキング構造を明らかにした.さらに,この分子の結晶性固体が細孔内に吸着した窒素分子をキラルに配列させていることを明らかにした.本研究課題は最終的に材料分野における応用を目指しており,分子の大量合成および簡易な供給法が重要となる.これまでに開発した合成経路,自身がもつ知見をもとに設計した分子の大量合成および結晶粉末を簡易に調製する方法を確立できたため,多孔性構造の評価をスムーズに行うことができた. このように気体小分子を固体中でキラルに配列した例は限られており,この成果は多孔質材料の新たな応用例としてその開発の幅を広げるものであると考える.以上より,元の計画から若干の方向転換はあったが,全体としては「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの検討で明らかになった固体中におけるゲスト分子の配列の制御についてさらに知見を深めるべく,引き続き (項目1) 会合の基礎的理解,(項目2) 固体中における構造と動的挙動の解析をさらに進めていく.また,並行して新たな大環状芳香族分子の設計・合成も進め,超分子錯体のさらなる構造多様化を進めていきたいと考えている.多様な構造の超分子錯体の物性を比較することで,超分子設計と物性との間の関係性について知見を得ることができると期待している. また,当初予定していた(項目3) 固体中における物性評価にも着手しようと考えている.主に粉末や単結晶,溶液の状態での種々の物性を測定し,特異な機能と物性の発現を目指す.
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Research Products
(3 results)