2020 Fiscal Year Annual Research Report
難治性固形癌への効率的抗体デリバリーを可能とする二段階送達システムの開発
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20J11536
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山内 聡一郎 熊本大学, 薬学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 環状一本鎖抗体 / 抗HER2抗体 / 次世代抗体モダリティ / インテイン反応 / PEG化 / 分子動力学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はトラスツズマブ由来の環状scFv(抗HER2環状scFv)を用いて研究に取り組んだ。以下に本年度の研究において得られた知見をまとめる。 (1)環状scFvの大量生産系の構築に向け、Pichia酵母および動物細胞を用いた環状scFvの分泌生産を試みたが、環状scFvを得ることはできなかった。 (2)抗HER2環状scFvについて構造物性評価(抗原親和性、熱安定性、粒子経の測定)を行った。その結果、抗原親和性および熱安定性を損なうことなく、凝集性が抑制されることを確認した。また、抗HER2環状scFvの高品質化を目的として、分子動力学計算(MD)により変性開始点と考えられる領域を特定した。さらに、この変性起点領域を安定化させる変異体の作製にも成功した。 (3)インテイン反応により連結部位に導入されるシステイン残基への蛍光標識を試みた。蛍光標識された抗HER2環状scFvは、HER2陰性細胞(MCF-7)およびHER2陽性細胞(SKBR-3)を用いたフローサイトメーター解析により、細胞表面抗原へと結合することを確認した。 (4)環状scFvをリポソーム内に効率良く封入するためには、環状scFvのアルコール耐性を向上させることが必要となる。そこで、環状scFvのシステイン残基に対してポリエチレングリコール(PEG)鎖を修飾することでアルコール耐性の向上を図った。数種類のアルコールと混合した後の残存活性を測定した結果、PEG鎖修飾により残存活性が向上する結果が得られた。さらに、PEG鎖を修飾した環状scFvは凍結乾燥後の溶解性が向上することも明らかとした。この結果は特許出願を行った(特願2020-189847 PEG化環状一本鎖抗体)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画書に記載の通り、(1)環状scFvの大量調製法の確立、(2)環状scFvの構造物性評価および高品質化、(3)環状scFvの生物活性評価、(4)環状scFvのリポソーム内封入条件の検討を行った。(1)において、Pichia酵母および動物細胞を用いた分泌生産を試みたが、環状scFvを得ることはできなかった。その原因として、タンパク質が細胞外に分泌される前にインテイン反応により分泌シグナル配列が除去されることが予想された。現状の環状scFv発現コンストラクトでは、この問題を解決することは困難であると判断し、インテインへの変異導入による環状化反応の制御を試みている。得られた知見を基盤として、改めて環状scFvの大量調製系を確立する予定である。(2)~(4)に関しては、抗HER2環状scFvの構造物性評価や生物活性評価、リポソーム内封入条件の検討を予定通り遂行できた。また、当初の計画にはなかったMDを用いた構造安定化変異体の作製やPEG化による環状scFvの溶解性向上などの興味深い結果も同時に得られており、環状scFvを用いた次世代抗体医薬品開発における重要な知見を蓄積できたと考えている。以上より、現在までの達成度として「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
変異導入法によるインテイン環状化反応の制御を試み、環状scFvの大量調製系の構築を目指す。酵母および動物細胞を用いた大量調製系の確立が困難である場合、ジャーファーメンターを利用した大量調製法の確立も予定しており、大腸菌株や培養条件の最適化を図る。 様々な分子量や形状のPEG鎖を環状scFv に修飾し、アルコール耐性の向上に最適なPEG分子を決定する。そして、PEG化環状scFvを用いて環状scFv内包リポソームの作成に取り組む。
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