2020 Fiscal Year Annual Research Report
Synthesis, characterization and biodegradation of high-performance bio-based plastics by using enzymes secreted from tooth decay fungus
Project/Area Number |
20J11594
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
都甲 梓 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 酵素触媒重合 / 再生繊維 / 多糖類 / 多糖誘導体 / バイオマスプラスチック / 生分解性プラスチック / 虫歯菌 / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、石油合成プラスチックの大量消費による石油資源の枯渇や地球温暖化、廃棄プラスチックの海洋汚染が問題視されていることを背景に、生体内のような穏和な条件で反応を触媒する酵素に着目し、穏和な条件での多糖材料の創製を目的としている。また、酵素の基質特異性を利用して、種々の主鎖骨格や置換度、置換位置を制御することで、生分解性を含む諸物性の制御を目指した。さらに合成した材料の結晶構造を解析することで、その結晶構造や配向度、結晶化度との機械物性や生分解性の制御と相関解明を試みている。今年度はその中でも、酵素触媒重合による多糖の主鎖骨格の制御とそれに伴う諸物性の制御と、酵素触媒重合多糖の繊維材料への応用という2つの観点について研究を行った。酵素触媒重合による主鎖構造の制御に関しては、既に櫛型の構造を持つ多糖類の酵素触媒重合に成功し、そのエステル誘導体化による新規バイオマスプラスチックの創製に成功している。また繊維材料への応用としては湿式紡糸法による再生繊維の作製、ならびに結晶構造解析を行い、誘導体化することなく材料を作製することができ、高い生分解性を維持した材料に繋がると期待される。これらの知見は、学会ならびに国際学術誌にて発表を行い、対外的にも発信している。また、期待以上の成果として、酵素触媒重合で得られるα-1,3-グルカンやそのエステル誘導体の結晶構造解析の比較対象として、カビの菌糸壁由来のニゲラン(α-1,3-alt-α-1,4-グルカン)とその誘導体についての結晶構造解析と特性評価を行ったことで、α-1,3-グルカンの構造や特性について比較議論が可能となり、多糖材料を応用化する上での知見を得た。このニゲランエステル誘導体の物性評価や結晶構造解析に関しても、既に国際学術誌ならびに学会にて発表を多数行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画では、虫歯菌由来酵素を用いた酵素触媒重合による多糖類の合成やその主鎖構造の制御等を目標としてきた。そしてこの当初の計画に沿って、今年度は前述の研究実績の通り、酵素触媒重合による多糖の主鎖構造や分子量の制御、さらにその多糖類のエステル誘導体化による材料応用を行い、国際学会での発表を行った。また、エステル誘導体化のみならず、湿式紡糸法による再生繊維の作製という化学修飾を伴わない方法による材料化にも成功し、国際誌と国内・国際学会において発表を行っている。さらに、期待以上の成果として、酵素触媒重合で得られるα-1,3-グルカンやそのエステル誘導体の結晶構造解析の比較対象として、カビの菌糸壁由来のニゲラン(α-1,3-alt-α-1,4-グルカン)とその誘導体についての結晶構造解析と特性評価を行った。これにより、酵素触媒重合で合成したα-1,3-グルカンや櫛型多糖の構造や特性について、さらなる比較議論が可能となった。この直鎖状でありながら交互異結合であるニゲランのエステル誘導体化、物性評価、結晶構造解析は今後種々の多糖を材料化する上で大きな知見であり、特に長鎖エステルにおける結晶性等、他の多糖材料にはない稀有な性質を見出した。このニゲランエステル誘導体の物性評価や結晶構造解析に関しても、既に国際学術誌ならびに国内学会にて発表を多数行っている。こうした、エステル化以外の手法としての再生繊維の作製や、ニゲランのエステル化、物性評価ならびに結晶構造解析は、当初の計画以上の進捗であるととらえている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に3つの観点で研究を進めたいと考えている。第一に、これまでに明らかにしてきた多糖エステルや酵素触媒重合のより厳密かつ詳細な条件検討による分子構造や置換度の制御を行いたいと考えている。これは、これまでに合成してきた材料の機械物性や生分解性を厳密に制御する上で重要な知見となり得ると考えている。第二に、これまでに作製してきた材料の生分解性試験、さらには結晶構造解析を行うことで、生分解性と結晶構造の相関を明らかにしていきたい。第三に、これまでの材料の加工法や処理法による更なる高機能化である。前年度に作製した再生繊維の、二次延伸やアニーリングといった熱処理や成形加工法によって、さらなる高強度化、高機能化を試みたい。また、前年度より研究を開始したニゲランについても、長鎖でも結晶性を有するという高い結晶性、また既に予備実験で得られている光学特性等を、加工法によって生かし、更なる高機能化、材料化を目指したい。またその機能性について、X線による結晶構造解析や偏光顕微鏡や電子顕微鏡による形態・配向度観察の結果から、メカニズムも含めて明らかにしたい。今年度は最終年であるので、これまでの知見を活かして生分解性試験等新たな試験を行いながらも、これまで最適化してこなかった点においても条件を詰めて、産業応用に近づけるような研究を行いたい。また、今年度は博士課程最終学年でもあるので、これまでに得られたデータを包括的かつ総合的に考察するとともに、国際学会、国内学会にも積極的に参加して自らの研究を発信し、また投稿論文という形でも知見を広く対外的にも発信したいと考えている。
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