2020 Fiscal Year Annual Research Report
ケイ素ポルフィリン/酸化チタン複合光触媒による可視光水分解
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20J11617
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
佐野 奎斗 東京都立大学, 大学院都市環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 酸化チタン / 酸化スズ / ナノ粒子 / 光触媒 / 人工光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず,半導体光触媒として利用する金属酸化物ナノ粒子の合成に取り組んだ.前駆体となる化合物を室温で撹拌するだけで,簡便に酸化チタンのナノ粒子を合成できることを明らかにした.得られた化合物はX線回折法や紫外可視吸収分光法などの機器分析法により評価した.合成したナノ粒子を含む分散液は高い透明性をもち,この透明性は酸を含む一部の含水有機溶媒中で長期間にわたり維持できることを明らかにした.特に酸性のメタノール水中では少なくとも2年間,安定に保存かつ利用できることを見いだした.また,得られた分散液をガラス基板上で乾燥させると透明な薄膜が得られ,分散液と薄膜のいずれの材料としても応用できることがわかった.このような高い透明性と安定性をもつナノ粒子は有機色素と組み合わせた色素増感型の光触媒反応への応用展開が強く期待され,これらの研究成果は学術誌ACS Appl. Mater. Interfaceにて報告した. さらに,この合成手法はこのほかの金属酸化物の合成にも応用可能であることがわかった.たとえば,酸化スズにおいても同様の手法によって透明な分散液が得られるほか,チタンとスズを混合することによって両者の複合金属酸化物を調製できることを明らかにした.チタンとスズの混合比率を変えるとその比率に応じて分散液の吸収スペクトルが変化したことから,ナノ粒子の光学特性の制御に貢献し得ると考えている.これらの成果においては光化学討論会などの学会にて発表した. また,酸化チタン材料の中でも色素との吸着が報告されている,シート状の酸化チタンナノ粒子(チタニアナノシート)にも注目し,これとポルフィリンの複合体形成挙動や光触媒反応に関する研究を,それぞれ学術誌Tetrahedron Lett.およびBull. Chem. Soc. Jpn.にて報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ポルフィリン分子を吸着させるためのホスト材料となる金属酸化物の合成については想像以上の進展があった.ナノ粒子分散液を安定化するための指針が得られただけでなく,合成方法の普遍化や金属酸化物の物性制御に向けた重要な知見が得られた.また,学会発表や論文投稿を通じて順調に成果を発表できている.これらの研究成果は色素増感反応に有効であると期待され,色素との複合化と光触媒反応への応用展開が強く望まれる. 一方で,本年度中には色素と上記の酸化チタンとの複合体の調製が完了する予定であったが,金属酸化物の合成法の確立までしか及ばなかった.これは酸化チタンナノ粒子分散液の安定性を保ちながら色素を吸着させるための溶媒条件の探索に時間を要したためである.また,研究対象としているケイ素ポルフィリンの合成は既報論文にしたがって挑戦したものの再現よく合成できず,得られたとしても合成収率は数%と極めて低かった.これに伴い,現在は引き続きケイ素ポルフィリンの合成に取り組みながら,それに代わる材料としてアルミニウムや亜鉛,スズなどのケイ素と同じく安価な元素を含むポルフィリン分子の合成にも着手し始めた.また,酸化チタンナノ粒子についても,色素との複合化が比較的容易なナノシート材料に着目し,亜鉛ポルフィリンと酸化チタンナノシートを組み合わせた材料の調製とその光触媒活性評価に関する研究を論文誌Bull. Chem. Soc. Jpn.にて報告した. このように,研究を進める過程で生じる多数の障壁のために当初の目論見通り進んでいない部分はありつつも,一定の成果を上げることはできたと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,ケイ素ポルフィリンの合成と金属酸化物との複合化,および光触媒活性評価に取り組む.本研究で新しく調製したナノ粒子分散液を透明なまま利用するためには強酸性条件下が求められ,これはポルフィリンの吸着には極めて不向きな条件であることがわかった.そこで,陽イオン交換性をもつ高分子として広く知られるNafionとナノ粒子を複合化させ,ナノ粒子の凝集に伴う透明性の低下を抑えながら分散液の中和を試みる.続いて,この分散液を用いてポルフィリンと金属酸化物の複合体調製に取り組む予定である. 金属酸化物としては,本年度調製したチタンとスズの複合酸化物に注目している.この化合物は金属の混合比率に応じて光学特性が変わるため,ポルフィリンを利用した水分解反応に有効な混合比率の探索を進める.たとえば,光励起されたポルフィリンから電子を受け取るためのエネルギー準位(伝導帯下端位置)は,ポルフィリンの励起電子のエネルギー準位よりも低くなければならない.逆に,伝導帯下端位置が低すぎると水分解反応には不利となるので,これらのバランスを考えた材料設計を進めていく予定である.加えて,チタニアナノシートをはじめとするナノシート材料に関する研究にも並行して取り組み,色素との複合化や光反応系への応用を進めていく. ポルフィリン誘導体としては,ケイ素ポルフィリンに限らず,安価でクラーク数の大きな金属であるアルミニウムを含むポルフィリンなどにも注目しており,金属酸化物へ電子を受け渡し,かつ水を分解できるような光学特性をもつ分子の設計に取り組んでいく予定である.
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