2020 Fiscal Year Annual Research Report
Comprehensive elucidation of the energy metabolism of hematopoietic stem cells by measuring the concentration of ATP in living cells
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20J11659
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
綿貫 慎太郎 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 造血幹細胞 / アデノシン三リン酸 / 代謝 / 解糖系 / 酸化的リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ATP濃度のバイオセンサーであるGO-ATeam2のノックインマウスを用いた。これはフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)によって、ATP濃度の変化をEGFPとKusabira Orangeの蛍光輝度の比によって評価出来る。このGO-ATeam2を用い、フローサイトメトリーを用いてFRET値(=Kurabira OrangeとGFPの蛍光強度の比を取った値)をATP濃度に変換することで、生きたHSCの経時的なATP濃度推移測定に成功した。この技術を用い、まず、代謝阻害剤(例:解糖系阻害薬 2-deoxy-D-グルコース; 2-DGや電子伝達系阻害薬 オリゴマイシン)による代謝学的摂動に対するHSCの代謝学的応答をATPを指標としてリアルタイム定量を行った。さらに、これらの阻害剤投与環境下に様々な栄養源(グルコース、ピルビン酸、乳酸、脂肪酸、アミノ酸など)を投与することで、HSCが実際に依存している栄養源を同定する。この技術はHSCのみならず分化血球にも応用可能である。従って、様々な栄養源存在下、代謝学的摂動を加えた際の応答をHSCと比較することで、HSC/分化血球それぞれに特異的な代謝特性を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
HSC/分化血球に対して解糖系や電子伝達系阻害を行い、さらにはその条件において様々な栄養源を加えた際のATP濃度の変遷をフローサイトメトリーで追った。まず、HSC/分化血球ともにオリゴマイシン投与によって2-DG投与と比較して短時間でATP濃度が大きく減少した。このことから、血液細胞における主たるエネルギー産生源はミトコンドリアであると考えられる。しかしオリゴマイシンのみならずグルコースを培地に加えた場合、解糖系単独でのATP産生力を測定可能であるが、この場合はHSCにおいてのみATP濃度を通常レベルに維持可能であることを明らかにした。この実験系はフローサイトメトリーを用いてFRET値を経時的に測定しているため、HSCの代謝動態をsingle-cell levelかつhigh resolutionで解析できる。これまで、ATP代謝動態を測定するには大量の細胞の融解が必要であった点から、代謝のスナップショットをとらえることはできてもATP代謝動態のリアルタイム定量は不可能であった。FRETバイオセンサーを用いることによって、生きたHSCや分化血球のATP濃度を高感度に測定できる系の開発が成された。さらにこの技術を用いることで、加齢HSCは中長期的な脂肪酸β酸化活性能力が高く、解糖系阻害に対して高いミトコンドリア代謝可塑性を有することを証明し、結果として加齢HSCは解糖系酵素Pgam1をノックアウトしても減少しないことをIn vivoで証明している。HSCは加齢に伴い代謝機能が低下するとされてきたことを考えると、加齢HSCの新たな代謝形質として強力な代謝可塑性をむしろ獲得するということを明らかにしつつある。したがって、高解像度かつ経時的なATP濃度解析技術を以てHSCの代謝動態の加齢性変化まで明らかにしつつある点から、研究は当初の予定以上の進展があると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
HSCが高い解糖系の可塑性を有していることに加え、HSCは加齢に伴いミトコンドリア代謝の可塑性を有するようになることを明らかとした。これらの現象の生物学的意義として、生涯にわたって造血を担うHSCが様々なストレスにさらされながら生存していくための細胞自律的な適応として、これらの可塑性を有するようになると考えられるが、さらなる分子メカニズムに関しては今後の検討課題である。さらには、ミトコンドリア代謝の可塑性を獲得する生物学的意義、およびdruggable targetとしての役割についても検討する必要がある。すなわち、加齢に伴いミトコンドリア代謝の可塑性を獲得するのは個体の生涯に渡って造血に寄与していくための策としてHSCが生存優位性を獲得するための策であるのか、あるいは様々なストレスにさらされることによってミトコンドリア代謝可塑性を受動的に獲得するのかを検証したい。さらに逆の視点から、加齢HSCがミトコンドリア代謝可塑性を獲得する代償として移植後の生着率喪失をきたしていると仮定すれば、人為的にミトコンドリア代謝可塑性を喪失させることにより加齢HSCの若返り現象を引き起こすことができるかどうかを検証していきたい。
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