2020 Fiscal Year Annual Research Report
ウィリアム・フォークナーの『行け、モーセ』における南部農園システムの分析
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20J11725
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
萱場 千秋 立教大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ウィリアム・フォークナー / アメリカ文学 / 奴隷制 / 経済的補償 / 制度的レイシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず、William FaulknerのGo Down, Moses(1942)における奴隷制の経済的補償を主題とした論文を執筆した。 南部敗戦に伴い、黒人奴隷は解放民となるが、時期を同じくして生まれた新たな経済体制により労働力を不当に搾取されてきた。その歴史的事実を受け、奴隷制の経済的補償は、黒人市民の集団訴訟や米国大統領選など、近年より現実的な解決策として捉えられつつある。 Go Down, MosesにおいてFaulknerが提示した最大の問いとは、奴隷制廃止後の白人農園主が家系の問題にいかに責任をとるのかであった。同作には、農園主から彼らと血を分けた黒人借地農への「遺産」供与と、それ対する黒人の受領拒否が描かれている。ここには、祖先の罪の後処理を合理的に終えたい白人と、一方的な解決を許すことのない黒人の、折り合いを見せない構図が映し出されている。 とりわけ、黒人女性の表象は注目に値する。黒人女性は、歴史的に、白人の子の乳母役を担わされてきた。作家は、黒人女性の精神的、肉体的損傷を描く一方、彼女達の母としての経験からなる認知力を描いている。つまり、経済原理とは異なる倫理観を持つ彼女達は、白人農園主による遺産供与の暴力性を看破するのだ。この分析により明らかにされたのは、同作に提示された奴隷制の経済的補償の問題性である。 以上の研究によって得た成果を、論文 “Inadequate Compensation: Economic Agency against the Plantation System in Faulkner’s Go Down, Moses”として取りまとめた。 同論文は、米国誌Journal of Modern Literatureの2021年夏号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Go Down, Mosesの作品研究論文は、おおむね予定通り執筆され、2020年度秋に採択が決定した。その後刊行に向けて編集者とのやり取りを経て、同論文は、2021年度夏に予定通り掲載された。同論文投稿後、当初より掲げていた黒人作家の作品における金銭補償テーマを探るという次なる課題に移行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、Go Down, Moses研究にて得た「補償」のコンセプトから派生し、人種と経済の表象から黒人作家の作品を探るという課題に移行する。具体的には、Faulknerと同時代の南部黒人女性作家Zora Neale Hurstonの諸作品の分析に着手する。すでに終えている基礎研究の結果、Hurstonの作品は「補償」という視点のうちに収めきれるものではないことが明らかとなったため、同コンセプトを修正しつつ、研究を行っていく。 代表作Their Eyes Were Watching God(1937)は、混血の女性主人公Janieの自立を描く小説として評価されてきたが、その自由への道のりの裏面には、黒人内の不和が描かれている。作家の伝記的情報に基づき、そうした黒人内の問題が、直毛に代表されるJanieの混血の身体に端を発しているという仮説を立て、その検証を行う。 同研究は、2022年上半期中の学会発表を行い、国内誌へ投稿予定である。
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Research Products
(1 results)