2020 Fiscal Year Annual Research Report
西岸境界流と中緯度大気の相互作用に注目した熱帯低気圧の新たな発達プロセスの解明
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20J11837
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤原 圭太 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 台風 / 黒潮 / 大気海洋相互作用 / 黒潮の受動的・能動的役割 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、①ハリケーンの温帯低気圧化(温低化)に対するメキシコ湾流の影響と②台風強化に対する黒潮の遠隔影響について調査した。 ①では、北米東海岸に極端降水をもたらした2012年のハリケーンSandyを対象として、雲解像領域気象モデル(CReSS)を用いた高解像度数値実験に着手した。具体的には、現実の海面水温(SST)分布を与える標準実験と、当時のメキシコ湾中緯度域におけるSST偏差を取り除いた気候実験を実施した。数値実験の結果は、当時のメキシコ湾流の極端な高SSTが、Sandyの温低化時の前線構造そのものを変化させることで、北米東海岸の降水量を約27%増幅させていたことを明らかにした。この結果は、暖流域のSST分布が、熱帯低気圧の温低化のプロセスや関連する極端事象の増幅に寄与することを示している。 ②では、CReSSを用いて黒潮域におけるSST改変実験を実施した。解析対象とした台風は、日本に接近する秋台風の典型例であるChaba(2010)とChan-hom(2020)である。SST改変実験では、北半球秋季の黒潮域のSST偏差の経年変動を模した4パターンのSST分布(0.5度および1.0度の高温または低温偏差)を日本南岸の黒潮域に与えた。黒潮に高温(低温)のSST偏差を与えると、台風が黒潮から離れた海域(南西諸島の東または南東海上)に位置しているにも関わらず、台風の発達が促進(抑制)される傾向が得られた。移動性高気圧が日本付近を東進しているような秋季に特有な総観場の下では、黒潮のSST変動は、黒潮から日本の南海上の台風への水蒸気輸送の増加・減少を介して、台風内部コア領域の潜熱加熱や台風2次循環に影響を与えることで、台風の発達を変調させる。これらの結果は、黒潮域のSST変動が日本の南海上を北進する秋台風の発達プロセスに遠隔的に作用することを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
非静力学雲解像モデルによる一連の高解像度シミュレーションにより、黒潮の存在自体が遠隔海域の台風の発達に影響を与えるという「黒潮の受動的役割」のみならず、黒潮域のSST変動も台風強化を変調させるという「黒潮の能動的な役割」を新たに明らかにした。この結果は、複数の台風事例(2010年台風Chabaや2020年台風Chan-hom)において適用できることを検証・確認しており、当初の予定通りの成果が得られていると考えられる。この研究成果は、近日中に国際学術誌に投稿する予定である。また、ハリケーンSandy(2012)によって生じた北米東海岸の極端降水の増幅におけるメキシコ湾流のSSTの役割の定量的評価や具体的なプロセス研究が進んでいる。この成果に関しても、現在、国際学術誌への投稿準備の段階にある。当初の研究計画の成果に加えて、プラスアルファの成果が得られたことから、当初の計画以上に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、当初の計画にあるように北大西洋のハリケーンの発達とメキシコ湾流の間にも同様な関係性が見出せるかを調査・検証する。具体的には、北西太平洋で着目した台風と同様な環境場を持つハリケーンを選定し、雲解像モデルによる各種感度実験(海面潜熱フラックス改変実験・SST改変実験)を実施する。また、2020年度の研究で得られたハリケーンの成果に関して、論文の投稿準備を進め、2021年度内での投稿完了を目指す。
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