2020 Fiscal Year Annual Research Report
Regional Diversity in Laicization of Hospitals
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20J11955
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 浩喜 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ライシテ / 政教分離 / 世俗主義 / 世俗化論 / フランス / 第三共和政 / 宗教社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題「ライシテの歴史的形成過程の再検討--病院のライシテ化の地域的多様性」を遂行するなかで、主に次の成果を得た。①第三共和政前期のボルドーにおける病院のライシテ化の展開と特徴の解明、②第三共和政初期のボルドーにおける祝祭のライシテ化の展開と特徴の解明、③世俗化論の形成過程の解明、の三点である。 ①については、ボルドーの文書館に保存されている資料を用い、1900年代のボルドーにおける病院のライシテ化は、政治的なものによる宗教的なものの「分割」と、政治的なものと宗教的なものの「協働」に特徴付けられることを解明した。その内容は、2020年10月3日の関西フランス史研究会での個人発表「第三共和政前期のボルドーにおける病院のライシテ化」で公表した。 ②については、ボルドーの文書館に保存されている資料を用い、ボルドーでは1880年を境に、聖体祭などの宗教的祝祭が公共空間で禁じられると同時に、国民祭という世俗的祝祭がそれにとって代わったこと、ただしこの祝祭のライシテ化は地元社会の意向を十全に反映していなかったことを解明した。その内容は、2020年11月7日のフランス史研究会で公表した後、「神の祭と国の祭--第三共和政初期のボルドーにおける祝祭のライシテ化」と題した論文にまとめ、『日仏歴史学会会報』に投稿し掲載された。 ③については、世俗化概念に関する宗教社会学の議論を再検討し、1970年前後の西洋で世俗化論が興隆した背景には、既存の宗教のあり方を改革しようとする宗教的な問題意識と、既存の宗教社会学のあり方を改革しようとする学問的な問題意識があったことを解明した。その内容は、2020年9月19日の日本宗教学会で公表した後、「世俗化論の形成過程の再検討--興隆の背景と米英仏での受容」と題した論文にまとめ、『東京大学宗教学年報』に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、事前に収集していた資料を丹念に読み込むことで、第三共和政期のボルドーにおける病院と祝祭のライシテ化の実態を解明することができた。また、これらの成果については学会と研究会での発表を行い、とりわけ祝祭のライシテ化については、査読誌『日仏歴史学会会報』に投稿し掲載することができた。病院のライシテ化については、来年度以降論文のかたちにまとめ、博士論文に組み込む予定である。コロナ禍で海外渡航が困難になったことで、新たな資料を大量に入手することは叶わなかった分、事前に入手していた資料を精読したり、その研究成果を発表や論文のかたちに具体化したりすることができたといえる。資料の不足に関しては、オンライン・アーカイヴの利用や資料の郵送によって補うことができた。 本年度は次に、ライシテ化に類似した世俗化という概念をめぐる宗教社会学の古典的な議論を振り返り、理論的考察を発展させることができた。世俗化論については、とりわけ20世紀後半以降大量の文献が刊行されており、なかには入手が難しくなっているものもあるが、資料の郵送サービスやオンライン・アーカイヴなどを用いながら網羅的に収集した。この研究成果も学会発表と論文のかたちに具体化することができた。その内容は博士論文にも組み込む予定である。コロナ禍により現地の文書館での資料収集が難しくなり、事例研究に制約がかかった分を、理論研究でカバーできたように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の課題としては、第一に、パリ・リヨン・ボルドーの現地でのさらなる資料調査を行うことが挙げられる。ただし、現在のコロナ禍の状況からして、海外渡航と資料調査は簡単ではないように思われる。そのため、資料調査については安全を最優先しつつ、可能であれば現地調査を行うことにし、基本的にはオンライン・アーカイヴや資料郵送サービスを用いての資料収集を中心にするのが現実的であるように思われる。 第二に、こうした資料収集の難しさを踏まえて、博士論文の完成に必要になる理論研究を進めることが、今後の研究の課題として挙げられる。この点については、とりわけ日本とフランス、さらに英米におけるライシテ研究の蓄積を体系的に整理し、ライシテ研究の課題を明確化することが必要になる。そこで来年度は、英語・仏語・日本語のライシテ研究、ないしそれに類する研究(政教分離や世俗主義の研究)を網羅的に渉猟することが課題となる。 第三に、今年度までの事例研究の成果を博士論文としてまとめ直す作業も、来年度の研究課題となる。
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