2020 Fiscal Year Annual Research Report
液相原子層堆積法に立脚した低温・低環境負荷セラミックスコーティング技術の開発
Project/Area Number |
20J11961
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 有沙子 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 溶液プロセス / 酸素生成触媒 / セラミックス / 水酸化物 / ヘテロ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は次の2テーマを中心に研究を進めた。 研究1:水溶液を用いた交互反応プロセスによる結晶化ヘマタイト薄膜の低温直接合成では、水酸化鉄等の中間生成物を経由せず、Fe水溶液から結晶化したヘマタイトを直接製膜可能な新手法である交互反応法 (Solution-mediated alternative reaction technique, SMART)を開発した。本手法では、まず基板をFe2+溶液に浸漬し、Fe2+を基板に吸着させる。次に、酸化剤 (NaNO2)と反応させることで、Fe3+-O結合を形成する。上記を繰り返すことで、基板上に結晶化したヘマタイト膜が形成される。実際、我々はSMARTを用いることで、熱処理無でヘマタイト膜の作製に成功した。また、本手法はシンプルな溶液法であるにも関わらず、Layer-by-layer堆積機構に基づき、ナノレベルの膜厚制御も可能である。 研究2:交互積層法によるNi(OH)2/FeOOHナノヘテロ構造の構築と触媒活性の制御では、研究1で得られた知見を活かし、優れた酸素生成触媒活性を示すNi(OH)2/FeOOH層ナノヘテロ構造体の作製を目指した。ここでは、Ni(OH)2層とFeOOH層を交互積層することにより、Ni(OH)2/FeOOH層ナノヘテロ構造体を作製し、触媒活性における各層のシナジー効果について検討した。合成においては、Ni2+溶液、Fe2+溶液とKOHとの析出反応を、Ni(OH)2層、FeOOH層の形成に用い、積層順序をプログラムすることで、各層の膜厚、及び積層順序を制御した。その結果、ヘテロ積層膜において、大幅な触媒活性の増強がみられると同時に、積層条件に応じて触媒活性の変化が見られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、セラミックスコーティング技術において解決すべき課題はプロセスの低温化である。既存技術は結晶化したセラミックス膜を得るために500 ℃以上の基板加熱、後熱処理を必要とし、プラスチックや透明電極等の低耐熱性基板上への製膜に適合しない。この問題を解決しうる手法の一つが溶液法を用いたセラミックス膜の直接作製である。本研究では結晶化セラミックス膜を100 ℃以下の低温で基板上に直接製膜することが可能な低コスト、低環境負荷である液相原子層堆積法を開発することを目的としている。研究計画に従い2020年度はヘマタイト膜の作製と光電気化学応用について取り組んだ。これまで得られた研究成果として上述したSMARTプロセスを開拓し、75 ℃という低温反応により、結晶化したヘマタイト膜の作製に成功し、UV-Vis、XRD、XPS等を用いた評価を行い、製膜原理について検討を行った。また、電気化学デバイス応用としては、水分解用光電気化学触媒、電気化学触媒として得られたヘマタイト薄膜を用いた。その結果、SMARTにより得られたヘマタイト膜はアニールプロセスにより得られたものよりも、光応答性は小さいものの、電気化学触媒(光照射無)としての活性は優れることが明らかとなった。また、併せてヘマタイト膜上にNi(OH)2を積層することで触媒活性が大幅に向上することを見出した。この結果はヘマタイト膜とNi(OH)2界面を介したシナジー効果によるものであると考察し、界面ヘテロ接合効果をさらに増強させるため、次に、Ni(OH)2/FeOOHヘテロ積層膜の作製及び、触媒活性制御に取り組んだ。上述したように、液相原子層堆積法をヘテロ積層膜の形成に活用し、狙いとする優れた触媒活性を有するNi(OH)2/FeOOHヘテロ積層膜の作製に成功した。以上の成果を元に、順調に研究が進んでいると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下、α-Fe2O3とAl2O3をターゲット材料とした2テーマを設定し、低温・低環境負荷な革新的セラミックスコーティング技術の開発について基礎・応用研究を行う。 1. α-Fe2O3膜の液相原子層堆積法と光電気化学応用 (液相原子層堆積法による高品位α-Fe2O3膜の作製とペロブスカイト型太陽電池への応用) 2. Al2O3膜の液相原子層堆積法と薄膜トランジスタ応用 (非加水分解ゾル-ゲル反応を用いた非水溶液-液相原子層堆積法の開発) 1年目で得られた知見をベースとして液相原子層堆積法をデバイス作製に応用する。α-Fe2O3については有機無機ペロブスカイト太陽電池における電子輸送層に用いる。ITO(電極層)、α-Fe2O3(電子輸送層)、CH3NH3PbI3(ペロブスカイト層)、Spiro-OMeTAD(有機系正孔輸送層)から成るペロブスカイト型太陽電池を作製する。近年、α-Fe2O3がペロブスカイト型太陽電池の既存電子輸送層であるTiO2より優れているという報告がなされている(W. Hu, et al., J Mater Chem A, 5, 1434-1441, 2017., Q. Luo, et al., Adv Funct Mater, 27, 34, 2017.)。ここで開発を目指す液相原子層堆積法は、高結晶性α-Fe2O3をITO上に直接製膜できることから、ペロブスカイト型太陽電池の性能向上に大きく貢献できる可能性を秘めている。他方、Al2O3コーティングについてはITOをゲート電極、Al2O3をゲート絶縁体、In2O3をチャネル層としたボトムゲート型トランジスタを作製し、デバイス性能を評価する。ここでは気相法で作製したAl2O3をゲート絶縁体としたトランジスタとの性能を比較し、液相原子層堆積法の問題点の抽出と解決を通し、デバイスの高性能化について追究する。
|