2020 Fiscal Year Annual Research Report
早期第一周期遷移金属を用いた炭素-水素結合活性化による共役ポリマー合成法の開拓
Project/Area Number |
20J11986
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
道場 貴大 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 鉄触媒 / C-H活性化反応 / チオフェン / ホモカップリング / ポリマー / 有機エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
共役2,2'-ビチオフェン構造を有する有機化合物は有機エレクトロニクスで幅広い応用がある.現在これらの化合物の合成法は1)ラジカルまたはラジカルカチオンを発生させて行う方法と2)パラジウムを触媒としてC-H結合活性化により行う方法が知られている.しかし,これらの方法はいずれも強力な酸化剤を必要とし,電子の授受を行いやすいチオフェン出発原料および生成物が酸化されてしまう,また,位置選択性が低いという問題点があった.そこで私はこれらの問題を解決するために,これまでの先行研究から酸化還元電位が低く,sigma-bond metathesis機構によりC-H結合を活性化することが知られている鉄の反応性に着目し,チオフェン化合物同士のC-H/C-Hカップリング反応の開発を行った. まず,申請者は所属研究室で以前報告した鉄(III),ホスフィン三座配位子,トリメチルアルミニウム,ジハロアルカンを用いた反応条件を用いて初期検討を行い,ベンゾ[b]チオフェンのホモカップリング体を低収率で得た.さらに,申請者はジケトンとアルミニウムの組み合わせに着目し,シュウ酸エステルが温和な酸化剤として使用可能であることを突き止めた.また,配位子を反応後の溶液から回収し,質量分析を行うことで触媒失活プロセスを明らかにした.失活を防ぐ新たな配位子を設計することでC-Hホモカップリングの反応効率をさらに向上し,市販品と同等以上の長さを有するモノマーが20個以上繋がったポリマーを得ることに成功した.本反応はドナーからアクセプターまでの幅広いモノマーに適用可能であり,有機エレクトロニクス分野で有用なポリマー材料を簡単な炭化水素モノマーから一挙に合成することを可能にする画期的な手法である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前項目に記載のとおり,これまで2,2'-ビチオフェン構造を有する有用有機化合物の合成法には1)ラジカルまたはラジカルカチオンを発生させて行う方法と2)パラジウムを触媒としてC-H結合活性化により行う方法があったが,これらの方法はいずれも強力な酸化剤を必要とし,電子の授受を行いやすいチオフェン出発原料および生成物が酸化されてしまう,また,位置選択性が低いという問題点があった.申請者はこの問題をジケトンとアルミニウムの組み合わせに着目し,シュウ酸エステルが温和な酸化剤として使用可能であることを突き止めた.これは前例のない酸化剤であり,今後の遷移金属触媒を用いた反応開発において重要な発見となると考えられる.また,配位子を反応後の溶液から回収し,質量分析を行うことで触媒失活プロセスを明らかにした実験では,配位子は反応溶液中に低濃度しか存在せず,それを回収して分析するには注意深い洞察力が必要である.今回の実験から得られた配位子が塩基と反応するという知見は今後鉄触媒を用いたC-H活性化反応を開発する上でも重要になると考えられる.さらに本反応はドナーからアクセプターまでの幅広いモノマーに適用可能であり,申請者は共同研究により既に本手法により合成したドナー型ポリマーを正孔輸送材料として用いてペロブスカイト太陽電池を作成しており,現在電力変換効率21%を達成している.これらの研究成果は三菱ケミカル株式会社と共同で特許申請済みであり,産学連携をも実現している.さらに論文はNature Catalysis誌にてUnder revisionである.第101春季年会(2021)においては本研究内容で学生講演賞を受賞している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではチオフェン化合物の炭素-水素結合を切断し,別の求核剤または求電子剤と反応させることで,有機エレクトロニクスで用いられているチオフェン化合物の直接的官能基化反応の開発を行う.本研究課題から,鉄触媒が二分子のチオフェン基質の炭素-水素結合を順番に切断し,二つのチオフェン部位を有する鉄触媒が還元的脱離を行うことでホモカップリング体が得られることがわかった.したがって,本反応系で一分子のチオフェン化合物の炭素-水素結合を切断し,二分子めのチオフェン化合物の炭素-水素結合を切断を行えなくすることで,ホモカップリング反応を抑制し,別の求核剤または求電子剤と反応させることができるようになると考えられる.これを実現するには本研究における三座ホスフィン配位子の中心のアリール部位のオルト位にアニオン性の置換基を導入し,ホスフィン3原子を含む四座配位子を設計することで実現できる可能性がある. これらの展望に加えて,本研究で得られたシュウ酸エステルが温和な酸化剤として用いることができるという知見は鉄触媒に限らず,他の酸化還元電位が低い早期第一周期遷移金属を用いた酸化的カップリングにおいても応用できる可能性があり,例えばクロムやマンガンを触媒としたホモカップリング反応の開発をシュウ酸エステルを用いて行うことなどが考えられる. 応用的研究としては蛍光部位を有するポリマーを本手法により合成し,有機レーザーを作成することができる.また,ホウ素を含むポリマーを合成し,フッ素イオンのセンサーを作成することも視野に入れている.これに加えて,ドナー型モノマーとアクセプター型モノマーを同時に共重合することで,HOMO・LUMOギャップの小さいポリマーを作り,近赤外光を感知するセンサーを作成することも可能である.これらの研究はデバイスを作成するノウハウを有する研究室との共同研究で行う.
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Research Products
(2 results)