2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J12028
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
白川 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 聖人崇敬 / 宗教史 / イタリア / 異端 / キアラ・ダ・モンテファルコ / グリエルマ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度は、Covid-19の拡大を受けて海外での史料調査・文献収集を断念し、刊行史料に基づいた分析と史学史的検討に集中した。本研究の当初の対象は14世紀末から15世紀の聖人崇敬と托鉢修道会改革の関係であったものの、その取り組みに際しては未刊行写本の網羅的利用が不可欠である。そのため、以前より分析を行っており手元に多くの史料がある13世紀末から14世紀中盤に対象時期を変更し、当時のイタリア半島に多く出現した神秘体験者・預言者と信徒の関係や、彼らに対する表象の構成を分析した。主に取り組んだ課題と成果は次のとおりである。 第一に、1300年に北イタリアのミラノで摘発された異端集団「グリエルマとマイフレーダの異端」を、人的結合の性格・構成、信仰実践という観点から検討し、その地域的・流動的性格や、正統側に属する他地域のカリスマ的神秘崇敬者との並行性を解明した。その成果は、今年度前半に査読付論文として発表される予定である。 第二に、13世紀末から14世紀初頭に活動した神秘体験者キアラ・ダ・モンテファルコに対する生前の崇敬の実態を検討し、彼女に対する生前の崇敬の非自明性、崇敬サークルの複数性や多中心性を明らかにした。また、彼女の活動が教会による信仰生活の規律化と矛盾するものではなく、むしろ両者のあいだに一致が見られることを指摘できた。この成果は、今年度のフィレンツェ大学若手セミナーで報告し、また同じく日本西洋史学会で報告の予定である。 第三に、本研究課題の批判対象である「聖職者と俗人」を対立させる歴史像の形成過程を検討するため、19世紀末の歴史家エミーリオ・コンバの著作を分析し、彼の宗派的背景と当時の国民形成が二項対立的な図式の背後にあることを明らかにした。成果は、査読付論文として発表された。 これらの成果からは、本研究課題の本来の対象時期に取り組むにあたって有用な知見・視座を得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度はCovid-19の世界的流行のために海外への渡航が叶わず、中部イタリアのフィレンツェ・スポレート・モンテファルコで予定していた史料調査を遂行することができなかった。そのため、分析するはずだった未刊行の写本・文書史料を入手することが叶わず、研究の対象時期やアプローチの変更を強いられた。 ただし、新たな課題自体の分析は順調であり、本来の対象時期に取り組む上での有効な視座を得ることができた。また、意見交換を行うはずだったフィレンツェ大学のIsabella Gagliardi教授にはオンラインを通じて指導を仰いでおり、今年度には同大学のセミナーにて研究報告を行うことが出来た。 研究成果の公表は順調に進んでおり、既に1本の査読付論文が公刊され、さらに1本が今年度中に公刊の予定である。また、今年度中に出版予定の共著の一章を担当し、既に原稿を提出している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も、Covid-19の感染状況の早期終息は望めないと思われるため、国内にて参照可能な史料を利用して研究を継続する。具体的には、以下の課題2点に取り組む。 第一に、13世紀末から15世紀へ至る司牧実践と聖人・神秘体験者崇敬の関係である。特に霊の識別Discretio spirituumと呼ばれる、神秘体験の原因となった霊の正体を見抜くための「技術」が後期中世から近世にかけて発展する過程を、イタリアの事例から検討する。ここでは、前年度明らかにした神秘体験者たち自身による主体的活動の存在を考慮に入れ、中世における司牧革命や規律化をより複層的な過程として捉え直すことを目指す。 第二に、13世紀末から14世紀初頭に崇敬された聖人たちの表象に対する分析である。前年度までに明らかになっている生前の聖人たちの活動や彼らに対する崇敬の、同時代ないし後世の伝記・図像史料における表象(特に変形・利用・演出)、その目的や手法を検討することで、後期中世イタリアの信仰文化における聖人崇敬の位置づけの検証を行う。 これらの作業に並行して、前年度までに明らかにした成果をイタリア語および日本語の論文として、査読付研究雑誌に投稿する。
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