2020 Fiscal Year Annual Research Report
Selectively adhesion mechanism of cell focusing on the polymer/protein/cell interface
Project/Area Number |
20J12038
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上田 智也 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 血液適合性 / 高分子ブラシ / 界面微細構造 / 相分離 / 水和構造 / タンパク質吸着 / 血小板 / 水晶振動子マイクロバランス |
Outline of Annual Research Achievements |
優れた生体適合性を示すため実際に臨床応用されている合成高分子であるポリ(2-メトキシエチルアクリレート)(PMEA)は、血球細胞の接着を抑制し、がん細胞や正常細胞は接着する選択的な細胞接着性を示す。血液などの体液が材料に接触すると、材料表面には高分子-タンパク質-細胞から成る階層構造が存在する。そこで本研究では、高分子/タンパク質界面とタンパク質/細胞界面の二つの界面に着目し、PMEAの細胞接着選択性のメカニズムをより詳細に解明を行った。 これまでPMEA/水界面はPMEAの密度分布が存在することが明らかになっており、PMEAの密度の違いによってタンパク質の吸着挙動が異なることが示唆されている。そこで密度の異なるPMEAモデル基板(gPMEA)をグラフト手法によって作製した。密度の異なるgPMEAにてタンパク質吸着実験・血小板粘着試験を行うとともに、gPMEA/水界面の界面構造や水和状態を解析することで、タンパク質吸着や血小板粘着に界面のどの物性が大きく影響するかを明らかにする。さらに種々の細胞の接着に関与する各種タンパク質の吸着状態をナノ~ミクロレベルで解析することによって細胞接着に影響する因子を検討する。以上を達成することでPMEAの細胞接着選択性の発現機構の解明に繋がると考える。 2020年度は密度の異なるgPMEAの作製からタンパク質吸着・細胞接着の評価を行い、gPMEA/水界面の物性解析までを行った。gPMEAは、可逆的付加開裂連鎖移動ラジカル重合と求核アシル置換反応によってチオール基を末端に有するPMEAを合成し、金基板表面に固定化することで作製した。gPMEA表面ではその密度に応じて各種タンパク質の吸着量は異なっており、血小板の粘着数も変化していた。さらにgPMEA/水界面において、血小板の粘着数が最小となる密度で、水に富む相の割合が高くなっており、血小板粘着抑制には水に富む相の存在が重要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究実施計画の内容である、密度の異なるgPMEAの作製、表面基礎物性解析、gPMEA/水界面の水和構造の解析はすでに完了しており、2020年度の目標をほとんど達成したためである。またgPMEA/水界面の水和構造の評価については新規の解析手法を確立し、予想した結果よりも多くの知見を得た。しかし、タンパク質の物性や水和構造の解析については現在検討を行っている段階である。 また得られた結果について、国内外の学会にて5件の報告を行い、1報の論文が学術誌に掲載された。 さらに次年度への準備である細胞の接着評価やタンパク質の1分子レベルの観察については既に検討を行っており、すぐに研究を遂行できる状態にある。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は主にgPMEA/水界面の物性解析、gPMEA/タンパク質界面でのマクロな現象の解析を行ってきた。今後はgPMEA/タンパク質界面、タンパク質/細胞界面、2つの界面においてナノ~ミクロレベルでの評価を行い、細胞接着といったマクロな現象にどのように繋がるかを明らかにする。gPMEA/タンパク質界面では、gPMEA表面上に吸着したタンパク質を1分子レベルで可視化、さらにタンパク質のコンフォメーション変化などを詳細に評価する。2020年度に達成できていないタンパク質の水和構造解析を熱分析や放射光を用いて解析する。また今後の研究結果とこれまでに得られた知見を併せて考察することで、PMEAの選択的な細胞接着性の発現機構の解明に繋がり、関連研究への波及や社会への貢献が期待される。
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