2020 Fiscal Year Annual Research Report
Millimeter- and Terahertz- Wave Absorber Designed by Antiferromagnetic Resonance of Iron-Based Corundum Oxides
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20J12063
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
林 兼輔 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 反強磁性共鳴 / テラヘルツスピントロ二クス / 酸化物磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、5G通信の次世代にあたる6G通信で使用が予想されるミリ波/テラヘルツ波の電波を、反強磁性共鳴(AFMR)によって吸収する材料の作製と、その材料の物性評価を研究目標にしている。具体的には、鉄系コランダム酸化物(α-Fe2O3)に様々な金属元素で置換することでAFMRの共鳴周波数ωrを変調することを目指す。本研究が達成されることで、6G通信で使用される発振器などを構築することが可能になり、今後の通信技術の発展に大きな貢献が出来ると考えている。 令和2年度の研究では、金属元素M (M = Al, Ru, Rh, In)をドープしたα-Fe2-xMxO3ペレットを固相法により作製し、ωrを変調することを試みた。α-Fe2-xMxO3ペレットは固相法により合成し、AFMRは連続波周波数掃引THz分光法よって共鳴吸収から測定した。金属元素ドープにより、室温におけるAFMRの共鳴周波数を0.209~0.947 THzで変調することに成功した。この結果は、室温で広範囲の周波数を発生させることができる発振器の作製に繋がる成果であり、本研究の目標を十分に達成している成果であると考えている。さらに、この共鳴周波数が金属元素ドープにより変化する原因は、Single Ion(SI)異方性の変化という事が示され、SI異方性の変化を実験的に示めすことにも成功した。 これらの研究成果に関しては、2021年3月に行われた第68回応用物理学会春季学術講演会にてポスター発表を行いPoster Awardを受賞した。現在は学術論文を執筆し、Applied Physics Lettersに投稿し査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、金属元素M (M = Al, Ru, Rh, In)をドープしたα-Fe2-xMxO3ペレットを作製し、ωrを変調することを試みた。α-Fe2-xMxO3ペレットは固相法により合成し、XRDを用いて結晶構造を同定した。試料のモーリン温度(TM)は磁化率の温度依存性から決定し、AFMRは連続波周波数掃引THz分光法よって共鳴吸収から測定した。 XRD測定の結果、全ての試料が単相であることが確認された。磁化率の温度依存性から決定したTMの組成依存性から、ドープした元素がAl、Inの場合は組成の増加と共にTMが低下する事が確認され、Ru, Rhの場合はその逆という事が確認された。金属元素ドープによりTMを137~597Kの範囲で制御することに成功した。共鳴吸収から測定されたAFMRの組成依存性の結果から、金属元素ドープにより室温における共鳴周波数を0.209~0.947 THzで変調することに成功した。 また、金属元素ドープによるTMの変化についてAFMRの観点から解析を行った。その結果、共鳴周波数が金属元素ドープにより変化する原因はSI異方性の変化という事が示され、SI異方性の変化を実験的に示めすことにも成功した。 本研究は進度が早く、令和3年度に行うことを予定していた、α-Fe2O3にPtやPdを混ぜ込んだグラニュラーバルク試料を作製し、PtやPdからの反強磁性体へのスピン注入をAFMRの半値幅の増加から見積もる研究に関しても実験を行った。実験の結果、α-Fe2O3の場合、PtやPdを混ぜ込んだ際にAFMRの半値幅の増加が見らなかった。このスピン注入によるAFMRの半値幅の増加は、NiOにPtやPdを混ぜ込んだ際に観測されており、NiOに比べてα-Fe2O3のAFMRの半値幅が大きいため、スピン注入の影響が観測できなかったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は進度が早く、当初令和3年度に行うことを予定していた研究をすでに完了している。そのため、今後はデバイス作製を目指し、令和2年度の研究内容をバルクではなく薄膜で実現することを目指す。 現在、特別研究員の林兼輔は酸化物薄膜の作製とその物性評価方法を学ぶため、アメリカのMITに海外渡航を行っており、そこで酸化物薄膜の作製の基礎としてY3Fe5O12(YIG)薄膜の作製とレーザー加熱について研究を行っている。 デバイス作製を見越して試料を作製する場合、配線の断線や熱による物質同士の拡散を防ぐため、通常の薄膜試料とは異なり、基板全体を加熱して物質を作製することが出来ない。基板加熱を行わない状態でSi基板上に作製したYIGは結晶化をしておらず、本来のYIGの性能が出ないため、YIGの部分のみを加熱することが可能であるレーザー加熱を用いてYIGを結晶化させる。 令和3年度は、Pulsed Laser Deposition (PLD)という手法を用いてSi基板上にYIGを堆積させることと、堆積したYIGをレーザー加熱しYIGが結晶化する最適条件を決定することを研究目標にしている。具体的には、レーザー加熱の時間と出力を変化させ、YIGがどの程度結晶化したのかを、XRDを用いて解析する。さらに、電子線後方散乱回折法を用いることで、結晶化している範囲を決定し、その結晶面についても議論する。このような実験を様々な膜厚のYIG試料で行い、体系的な結果を導き出す。また、YIG薄膜の上に金属を蒸着し配線を行い、それがレーザー加熱によりどのように破壊されるのかも検証する。 このYIGのデバイス作製に必要な最適条件を定めることで、PLDを使いα-Fe2O3をSi基板上に堆積させAFMRデバイスの作製する際の指針を立てることが可能になる。
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