2020 Fiscal Year Annual Research Report
Coupled map lattice for phase inversion from cream to butter: towards understanding food texture formation based on polymer and nonlinear physics
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20J12074
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
野澤 恵理花 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 結合写像格子 / 転相 / クリーム / 撹拌 / 食感 / 脂肪球 / 粘性 / 気泡性 |
Outline of Annual Research Achievements |
分野横断的な非線形科学の手法である結合写像格子(CML)を用いて、これまで生物学・化学分野の研究対象であった食品を物理学の立場から研究している。特に、多様な食感を示す食品エマルションである生クリームを研究対象に選び、撹拌によってホイップクリームを経てバターへと至る、その転相現象について調べている。生クリームを無数の分子の繋がりである高分子として捉え、撹拌によりそれら高分子が絡みもつれ合う複雑な過程を、シンプルな力学により構成することで、もつれ合った高分子が織り成す空間パターンを再現し、歯ごたえや舌触りと言った食感(テクスチャ)の物理的な記述を試みている。 今年度は、まず、転相過程を再現するための食品のCMLの構成的モデリングを行った。シミュレータのプロトタイプを変更容易な開発環境を用いて効率的に作成し、プロトタイプによるシミュレーションを行いながら、構成的モデリングを繰り返すことで、転相過程を再現するために必要不可欠な場の変数、及び、手続きの組合せを模索し、食品のCMLを次の(1)~(3)のように完成させた。 (1)格子上におく粗視化された場の変数として、エマルションの界面エネルギー、凝集エネルギー、速度が適当であることが分かった。 (2)転相過程を再現するための素過程として、撹拌によるエマルションの速度や界面エネルギーの変化、合一によるエマルションの界面エネルギー、凝集エネルギーの変化、凝集によるエマルションの速度の変化が重要であることが分かった。 (3)(2)の素過程に対応した、格子上の場の変数に作用する手続きとして、エマルションの緩和現象を考慮した、撹拌を表す手続き、脂肪球膜の界面活性を考慮した、合一を表す手続き、脂肪球のフロック凝集やオストワルド熟成を考慮した、凝集を表す手続きが、転相過程の再現に必要不可欠であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
完成した食品のCMLのシミュレータを用いて、シミュレーションを実施したところ、実験や製菓の経験則と定性的によく一致する、転相過程における気泡性、粘性の時間変化を再現することができた。そこで、次年度の研究計画を少し先取りする形で、食品のCMLの重要なパラメータの1つである、脂肪球膜の界面活性に対する温度依存的な閾値のパラメータ探索を行った結果、撹拌温度が高い場合(10~15℃)と低い場合(3~7℃)に対応する2つの異なる転相過程を発見した。2つの転相過程は、粘性-気泡性平面(相図候補の1つと考えている)上で特徴付けられると共に、異なる気泡性、粘性の空間パターンを示し、食感(テクスチャ)の物理的な記述へ向けての良い指針が得られたと考えている。 これらの結果を現在、査読付欧文誌への投稿論文としてまとめている。また、国際会議18th International Congress on Rheology(Rio de Janeiro, Brazil, オンライン開催)、日本物理学会2020年秋季大会(熊本、オンライン開催)、日本物理学会第76回年次大会(東京、オンライン開催)、第68回レオロジー討論会(岩手、オンライン開催)等で発表した。特に、日本物理学会第76回年次大会では、学生優秀発表賞(領域12、ソフトマター物理、化学物理、生物物理)を受賞した。併せて、転相現象の研究の基礎(論拠)となるCML(食物連鎖のCML、天体形成のCML)の発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」において述べたように、食品のCMLによって再現された転相過程は、実験や製菓の経験則とよく一致する結果を示した。特に、粘性-気泡性平面は、高い撹拌温度と低い撹拌温度、それぞれに現れる2つの異なる転相過程を特徴付けることから、相図の重要な候補と考えられる。また、気泡性、粘性の空間パターンは、それぞれの転相過程において、エマルション中の高分子が絡みもつれ合う複雑な様をよく表しており、食感の物理的記述に対する重要な指針と考えられる。 そこで、まず、食品のCMLが新たに見出した2つの異なる転相過程に関する研究をまとめ、国内外の査読付き雑誌に論文として投稿すると共に、アウトリーチ活動を踏まえ、国内の商業誌に解説記事として投稿する。その際、食品のCMLの構成的モデリングや、相図の候補を与える粘性-気泡性平面、及び、食感の指針を与える気泡性、粘性の空間パターン等について詳細に述べる。 次に、高低2つの撹拌温度で得られた異なる転相過程に基づいて、撹拌温度(脂肪球膜の界面活性に対する温度依存的な閾値、閾特性など)と撹拌速度(撹拌角速度、撹拌時間間隔など)に対する、より詳細なパラメータ探索をCMLの高速計算により実施し、粘性-気泡性平面上における食品エマルションの分類(相図解析)を行う。併せて、得られた分類と、実際の食品エマルションとの定性的な一致度合いについて、気泡性、粘性の空間パターンを用いた検証を行う。 最後に、相図解析に関する論文をまとめ、国内外の査読付き雑誌に論文として投稿する。論文では、気泡性、粘性の空間パターンを用いた食感の物理的記述についても議論する。
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Research Products
(8 results)