2020 Fiscal Year Annual Research Report
がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症増悪機構の解明と臨床への応用
Project/Area Number |
20J12088
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
門脇 裕 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | ドキソルビシン / がん / エクソソーム / miRNA / 心臓萎縮 / 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
アントラサイクリン系薬剤は主要な抗がん剤であるが、ときに重篤な心筋症を誘発することでがん患者の生命予後を著しく悪化させる。アントラサイクリン心筋症の病態機序の全容は解明されておらず確立した治療はない。本研究はがん存在下に、マウスや培養心筋細胞に対するアントラサイクリン系薬剤の心毒性を解析することによって、がん由来因子が心臓表現型に与える影響について検討し、アントラサイクリン心筋症の病態機序の解明と治療標的分子の同定を目的としている。 当該研究員は、マウス乳がん細胞を皮下移植することにより作成した担がんマウスに対して、ドキソルビシン (アントラサイクリン系薬剤の代表的薬剤) を投与することによって担がんドキソルビシンモデルマウスを樹立した。担がんドキソルビシンモデルマウスでは、心臓超音波検査や組織学的検査等による表現型解析によって『何らかのがん由来因子』がアントラサイクリン系薬剤に伴う心臓萎縮を助長している可能性が示唆された。さらに、担がんドキソルビシンモデルマウスの血清由来エクソソームに内包されるmiRNAに対して、miRNA アレイ法を用いた網羅的発現解析を行うことによってがん由来因子となり得る候補 miRNA を明らかにした。また、その心筋毒性が起こる下流の因子として筋萎縮関連遺伝子である MAFbx/atrogin-1 や MuRF1 遺伝子の発現上昇を確認した。これまでの研究実績をまとめると、がん由来 miRNAが筋萎縮関連遺伝子の発現調節に関わることによってアントラサイクリン系薬剤投与に伴う心臓萎縮を増強し、アントラサイクリン心筋症の心臓表現型が増悪している可能性がある。 がん由来miRNAをアントラサイクリン心筋症の新たな診断・発症予測モダリティー、あるいは治療ターゲットとして応用することによって将来的に診療技術の向上することが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
担がんドキソルビシンモデルマウスでは、非がんドキソルビシンマウスと比較して強い心機能障害および心臓萎縮を起こすことが明らかとなった。その原因となるがん由来因子の候補として、がん由来miRNAの関与を想定し、担がんドキソルビシンモデルマウスの血清由来エクソソームに対してmiRNAアレイ法による網羅的発現解析によって候補miRNAの抽出を実施した。さらにその下流のメカニズムとして、筋萎縮関連遺伝子の発現亢進が心臓萎縮機序に関わっていることがこれまでの研究で示唆された。これらの成果が、当初の研究計画に即していることから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、がん由来因子となり得る候補として抽出したmiRNAをデータベース解析することによって絞り込みを行い、得られたmiRNAをトランスフェクション法によって過剰発現、あるいはRNA干渉法によって発現抑制したがん細胞を作成する。そのがん細胞を用いて、担がんドキソルビシンモデルマウスを作成した場合に表現型にどのような変化が起こるかを検討する。また培養心筋細胞を用いた実験を行うことによって、一連のシグナル伝達系についても検討を進める方針としている。さらにDual-Luciferase Reporter Assay や RNA 免疫沈降法によりがん由来 miRNA と RNA 間相互作用を行っている標的 RNA を同定することによって、がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症の増悪機構の全容について解明を試みる方針としている。
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