2020 Fiscal Year Annual Research Report
大マゼラン雲の近赤外線分光マッピングで探る銀河間相互作用による大質量星形成
Project/Area Number |
20J12119
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古田 拓也 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | ダスト3次元構造の新しい評価法 / 近赤外線観測装置の開発 / 銀河間相互作用の観測的証拠 |
Outline of Annual Research Achievements |
最も近傍の銀河である大マゼラン雲では、小マゼラン雲からのガス流入が示唆される。さらに、その流入ガスと大マゼラン雲のガスが衝突したことにより大質量星が形成されたと考えられている。このような外部からのガス流入と、そのガス衝突を調べるためには、ダスト/ガス比とダスト3次元構造を調べることが重要となる。 そこで、我々が南アフリカに持つIRSF望遠鏡による近赤外線データから、3次元のダスト減光 (Av) マップを作成する新しい手法を開発した。この手法では、星1つ1つの減光を求め、その値の大きさを元に昇順に並べ、パーセンタイル値をとることで、視線方向のダスト分布を評価できる。そして、得られた3次元ダスト減光マップと、速度分解したガスマップを比較することで、速度成分ごとのダスト3次元構造とダスト/ガス比の評価に成功した。これにより、小マゼラン雲からのガス雲が大マゼラン雲円盤に対して斜め方向からぶつかっている証拠を得た。この結果から、先行研究で知られていた星形成進化段階の系統的な変化を説明することに成功した。この成果をまとめ、主著者として査読付き論文をPASJ (Publications of the Astronomical Society of Japan)誌に投稿した。 さらに、このガス衝突領域の物理環境(衝撃波の有無・金属量)を詳細に調べるための近赤外線観測装置の開発も進めた。観測装置を鹿児島大学の望遠鏡に取り付けて、試験観測を実施した。また、検出器を高性能なものへ変更する準備を進めた。本装置により、ガス衝突領域を徹底的に調べることで、大質量星形成を引き起こす条件の解明につなげたいと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大マゼラン雲では、小マゼラン雲からの流入ガスと大マゼラン雲のガス衝突による星形成が示唆されていたが、ガスの速度情報のみでの議論にとどまり、詳しいガス衝突の描像が理解されていなかった。そこで私は、南アフリカ望遠鏡IRSFで取得した近赤外線データを用いて、大マゼラン雲のダスト減光マップを作成し、大質量星形成に付随するガスとダストの分布に関する研究を進めた。具体的には、Percentile methodと呼ばれる新しい手法を導入してダストの3次元分布を見積もった。これにより、小マゼラン雲からのガス雲が大マゼラン雲円盤に対して斜め方向からぶつかっている証拠を得るだけだなく、先行研究で知られていた星形成進化段階の系統的な変化を説明することに成功した。この成果は、私が主著の査読付き論文としてPASJ (Publications of the Astronomical Society of Japan)誌に投稿するに至った。 さらに、この研究を発展すべく、新しい近赤外線観測装置の開発を進めた。具体的には、鹿児島大望遠鏡に取り付け、テスト観測を実施した。さらに、より高精度な観測に向けて、検出器変更の準備も進めた。 以上のように、科学成果を論文としてまとめたことに加え、さらなる研究の発展に向けた装置開発も進捗が見られていることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の前半には、ガス衝突領域を特定するためのガス3次元構造を得る新しい解析手法を大マゼラン雲の全体に対して行い、ガス衝突領域の特定を行う。そして、小マゼラン雲からの流入ガスと大マゼラン雲のガスの衝突による大質量星形成に関して議論する。さらに、ガス3次元構造をもとに、ガス衝突のタイミングと星の年齢を調べ、星の進化過程についても議論する。 この研究と並行し、新しい赤外線観測装置の開発を進める。本年度の前半には、本装置に搭載する新しい赤外線センサーの性能評価を実施する。具体的には、暗電流や読み出しノイズ、スペクトル感度測定を、赤外線センサー単体での実験で評価する。その後、この赤外線センサーを本観測装置に搭載し、観測装置全体での光学性能評価試験を行う。この性能評価試験方法は、すでに確立されているため、その方法に従い、集光度や結像位置が設計通りに得られているか確認する。光学性能試験が終わり次第、新しい赤外線センサーを搭載した本観測装置を、鹿児島大望遠鏡に搭載し、テスト観測を実施する。そして、望遠鏡搭載時にも、期待される光学性能が得られているかの確認を行う。本年度末には、本観測装置を南アフリカに輸送し、南アフリカでの観測開始を目指す。そして、ガス衝突領域を本観測装置で観測し、物理環境を徹底的に調べ、星形成メカニズムの解明に向けた研究を進める。
|
Research Products
(2 results)