2020 Fiscal Year Annual Research Report
アルゴリズム的ランダムネスの理論による統計力学への新たなアプローチ
Project/Area Number |
20J12143
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
日浦 健 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
|
Keywords | 統計力学 / 熱力学 / ゲーム論的確率論 / アルゴリズム的ランダムネス / マルチンゲール |
Outline of Annual Research Achievements |
微視的状態の系列が持つランダムネスと熱力学第二法則の間の関係を調べた.具体的には,有限系に対してクエンチと等温準静的操作で構成されるサイクル操作による仕事の取り出しを戦略的に繰り返す問題を設定した.ランダムネスの特徴付けのひとつにマルチンゲールの漸近的挙動を用いた条件が知られているが,先の問題における力学的仕事の積算がギブス分布に関するマルチンゲールであることを同定し,ランダムネスのマルチンゲールの特徴付けと「いかなる実効的なサイクル操作を用いても第二種永久機関が存在しないこと」が等価になることがわかった.また,同様の設定をゲーム論的確率論の立場から解釈することで,第二種永久機関の非存在からギブス分布が経験分布や経験平均の収束結果として導かれることがわかった.この結果は,現在論文が投稿中である.
このようなアプローチとは別に,近年マルチンゲールに関する諸々の数学的結果を確率的な熱力学へと応用する研究が現れ始めている.そのような研究に刺激され,停止時刻における熱力学的不確定性関係を考察した.現在のところ,この路線での進展は少ないが,副産物として first passage time の運動論的不確定性関係が得られた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題であった熱力学第二法則とギブス分布に関するランダムネスの関係について明快な数理的定式化と期待していた結果が得られている.しかし,設定の中で最大仕事の原理を仮定してしまっておりダイナミクスとの関係が明らかでない,戦略の構成に過去の微視的状態に関する情報が必要である,無限系での定式化が困難,などいくつかの重要な課題も残されている.以上を総合的に判断すると,おおむね順調な進展と考えられる.
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度から引き続き,マルチンゲールと熱力学第二法則との関係に関する理解を深めていく.先に指摘したいくつかの課題を克服すると同時に,このアプローチをブラウン運動,情報熱力学や量子系などより広い物理系へと発展させていく.特に,量子系のランダムネス研究はごく最近になって始まったばかりであり,マルチンゲールでいかに特徴付けるか,といった基本的な問題から解決していく必要があるだろう.
|