2020 Fiscal Year Annual Research Report
指向性進化を用いた芳香族ポリマー原料生合成経路の構築
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20J12216
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 友希 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 網羅的変異スキャン / XylS / バイオセンサー / タンパク質工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、芳香族化合物を認識する転写制御因子XylSを利用して、芳香族ポリマー原料である2,6-xylenolの人工生合成経路を効率的に構築する手法の開発を目指している。これまで飽和変異導入と次世代シーケンサーによる網羅的配列解析を用いることで、XylSのアミノ酸置換がそのリガンド特異性に与える影響を網羅的に解析する手法を構築した。 XylSのリガンド結合ドメインの1残基ずつに飽和変異を導入したライブラリを作製し、これをXylSが結合するPmプロモーターの制御下に抗生物質耐性遺伝子を配置したプラスミドとともに大腸菌に導入した。これをアンピシリンと種々のリガンド、またはクロラムフェニコールとm-トルイル酸存在下で培養し、培養前後の各変異XylSの存在比を次世代シーケンサーで解析した。各変異XylSの濃縮値をヒートマップとペアプロットに表し、その解析から2残基がp-トルイル酸特異的認識能に重要であると推定した。候補となる変異XylSの中から複数を選抜しリガンド応答活性を測定した結果、G71が置換された数種類の変異XylSはp-トルイル酸特異的応答活性を示した。また、XylS-S199MとXylS-G198Mがそれぞれ2,6-xylenolやテレフタル酸を認識すると推定した。それらのリガンド応答活性を測定したところ、それぞれ2,6-xylenolやテレフタル酸への応答活性を示したが、目的以外のリガンドにも応答した。2,6-xylenolやテレフタル酸を認識するようにXylSを改変するためには、多重変異導入が必要であることが示唆された。そこでXylSのリガンド認識能に重要であることが推定された複数残基に同時に飽和変異を導入した変異XylSライブラリを構築した。今後機械学習によるスクリーニングによりXylSが2,6-xylenolやテレフタル酸を認識するように改変する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、生育を指標とする選抜と次世代シークエンサーによる網羅的配列解析を組み合わせた網羅的変異スキャンにより、転写制御因子XylSのリガンド認識能に重要な残基の情報を取得した。この情報を用いて、元のリガンドではなく新規リガンドを特異的に認識する変異XylSを新たに数種類獲得した。網羅的変異スキャンを用いた転写制御因子の改変手法は新規なタンパク質改変手法であり、配列情報に基づくタンパク質の機能改変を可能にする先駆的な手法である。この手法を確立し、機能改変が可能であることを実証したことは高く評価できる。一方、2,6-xylenolを特異的に認識する変異XylSは得られていない。網羅的変異スキャンにより2,6-xylenolへの応答に関与すると推定される残基の情報が得られているため、今後この情報を利用した機械学習による改変により、目的の変異XylSを得ることができると期待している。また、2,6-xylenolを認識する変異XylSが得られていないため、2,6-xylenol人工生合成経路の構築はやや遅れている。そこでXylSが3-メチルサリチル酸を認識することを利用し、2,6-xylenol人工生合成経路の下流に2,6-xylenolを3-メチルサリチル酸に変換する経路を組み込むことで2,6-xylenolの生産を検出する別の経路を構築した。この系は転写因子をセンサーとして、目的化合物を合成する酵素のスクリーニングを行う実験系のモデルとしても位置付けられるため、その価値は大きい。今後この系を用いてTPLやSacFの改変が可能になることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で網羅的変異スキャンによりXylSのリガンド認識能に重要なアミノ酸変異情報を取得したため、この情報を用いてXylSへの多重変異導入と機械学習によりXylSが2,6-xylenolを認識するように改変する。現在変異XylSライブラリを大腸菌に導入した。これを抗生物質存在下での培養し、種々のリガンドと抗生物質存在下でスクリーニングを行う。濃縮された変異XylSの配列情報をもとにリガンド認識能に重要な残基をさらに絞り込む。絞り込んだ残基への変異導入によるXylSライブラリを新たに構築し、大腸菌内でリガンド認識能を測定する。この測定結果を入力値とし、ベイズ最適化アルゴリズムを用いた機械学習による新規リガンド認識能を有する変異XylSのin silicoスクリーニングを行う。 また、XylSが3-メチルサリチル酸を認識することを利用し、2,6-xylenol生産を検出する系を構築する。2,6-xylenolをXylMABCにより3-メチルサリチル酸に変換する経路を2,6-xylenol人工生合成経路の下流に組み込む。そのためにXylMの活性をerror prone PCRによる変異導入と薬剤耐性を指標とした指向性進化により改変する。さらに、2,6-xylenol合成酵素を作製するため、チロシンフェノールリアーゼ (TPL) とSacFを改変する。合成TPLまたはSacF遺伝子の変異ライブラリーを作製し、XylSが制御するプロモーターの制御下に薬剤耐性遺伝子を配置したプラスミドとXylMABCを配置したプラスミドと共に大腸菌に導入する。宿主を基質と薬剤存在下で培養し、薬剤耐性により2,6-xylenol生産宿主を選抜する。各種分析機器を用いた生産物の確認、濃縮された変異SacFの遺伝子配列解析、組換えタンパク質の調製による酵素学的解析を行う。
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Research Products
(2 results)