2020 Fiscal Year Annual Research Report
三角格子反強磁性体におけるボンドランダムネス効果の解明
Project/Area Number |
20J12289
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
渡邊 正理 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 磁性 / ボンドランダムネス / フラストレーション / 量子スピン系 / 量子スピン液体 / 強相関電子系 / 物性実験 / 量子相 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,交換相互作用の非一様性(ボンドランダムネス)の制御が容易なランダムボンド三角格子反強磁性体のモデル物質の合成法を確立し,ボンドランダムネスが三角格子反強磁性体の基底状態と磁気励起に及ぼす効果を実験的に解明することである. 初年度である2020年度は,スピンS = 1/2ランダムボンド三角格子反強磁性体の良いモデル物質となるBa2La2Co(Te1-xWx)2O12(以下,BLCTW)の純良多結晶試料の合成法を確立した.BLCTWでは,混晶比率xによってボンドランダムネスの強さを系統的に変化させることができる.我々は,系統的にxを変化させたBLCTWの多結晶試料に対して,0.3 Kから室温までの温度範囲でゼロ磁場比熱測定を行った.xの増加に伴って磁気秩序を示す比熱のλ型ピークが強く抑制される振る舞いが観測された.さらに,これまでに得られたBLCTW(x = 0, 0.1, 0.5)に対するミュオンスピン回転・緩和(μSR)測定の結果の解析を行い,学術雑誌投稿に向け論文執筆を開始した.本研究成果の一部に関して日本物理学会秋季大会で口頭発表を行い,領域3の 学生優秀発表賞を受賞した. また,弱いボンドランダムネスが存在すると考えられるS = 1/2正方格子Heisenberg反強磁性体SrLaCuMO6 (M = Sb, Nb)の粉末中性子回折実験の結果を解析し,低温での磁気構造を決定した.SrLaCuMO6 (M=Sb,Nb)は低温で磁気秩序を示すが,Rietveld解析により得られた磁気モーメントはスピン1/2で期待される値よりも縮んでいる.これは,量子効果とボンドランダムネス効果の協力現象であると理解できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は,スピンS = 1/2三角格子ランダムボンド反強磁性体の基底状態の解明に関して大きな成果が得られた. S = 1/2ランダムボンド三角格子反強磁性体の新規モデル物質Ba2La2Co(Te1-xWx)2O12(以下,BLCTW)の純良多結晶試料の合成法を確立した.BLCTWでは,非磁性のTe6+イオンとW6+イオンのディスオーダーによって,Co2+間の交換相互作用にランダムネスが生じる.混晶比率xを系統的に変化させたBLCTWに対するゼロ磁場比熱測定では,xの増加に伴って磁気秩序を示すλ型ピークが抑制される振る舞いが観測された.また,x = 0.5のBLCTWに対するミュオンスピン回転・緩和 (μSR)測定では37 mKまで磁気秩序が生じないことが確認された.本研究成果の一部を日本物理学会秋季大会で口頭発表を行い,領域3の 学生優秀発表賞を受賞した.現在は,スピンS = 1/2三角格子ランダムボンド反強磁性体の磁気励起の解明に向けて,熱伝導率測定に必要なBLCTWの単結晶育成に取り組んでいる.加えて,スピンS=1/2Heisenberg三角格子反強磁性体の理想的なモデル物質として知られるBa3CoSb2O9におけるボンドランダムネス効果の研究にも着手している. また,弱いボンドランダムネスをもつと考えられるS=1/2正方格子Heisenberg反強磁性体SrLaCuSbO6およびSrLaCuNbO6に対する粉末中性子回折実験の結果を解析し,低温での磁気構造を決定した.さらに,密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算を行い,微視的な磁気モデルを議論した. これらの研究成果は,本研究課題を達成する上で重要な知見を与するものである.したがって,当該年度の研究進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究では,スピンS = 1/2三角格子ランダムボンド反強磁性体の良いモデル物質となるBa2La2Co(Te1-xWx)2O12(以下,BLCTW)の純良多結晶試料の合成法を確立した.BLCTWの比熱・磁化測定やミュオンスピン回転・緩和(μSR)測定により,S = 1/2三角格子ランダムボンド反強磁性体の基底状態に関する知見が得られた.2021年度は,BLCTWなどのS = 1/2三角格子ランダムボンド反強磁性体の大型単結晶育成を行い,磁気励起に関する研究に関する研究に取り組む.また,S = 1/2以外の三角格子ランダムボンド反強磁性体のモデル物質を開拓し,基底状態と磁気励起の性質を調べる.さらに,三角格子反強磁性体の三次元への拡張として理解できる面心立方格子反強磁性体におけるボンドランダムネス効果を調べる. 現在執筆中であるBLCTWの基底状態に関する論文を含め,本研究で得られた成果を論文としてまとめ学術雑誌へ投稿する.
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