2020 Fiscal Year Annual Research Report
高温高圧実験とフェーズフィールド法による相転移断層形成と深発地震の発生機構の解明
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20J12328
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤 燦道 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 深発地震 / 相転移 / Phase Field / 蛇紋岩 / やや深発地震 / 変形実験 / かんらん石 |
Outline of Annual Research Achievements |
沈み込み帯内部で発生する深発地震の発生機構の第一段階目として、オリビンースピネル相転移に伴う断層運動モデルが有力視されている。このモデルの粒径依存性を明らかにするために、異なる粒径の出発物質を用いて変形実験を行う予定である。そのために本年度はオリビンのアナログ物質であるゲルマニウムオリビンを使用して出発物質の合成を行った。出発物質の合成に放電パルス加工と高温電気炉を組み合わせることで、異なる粒径の緻密な出発物質を合成することに成功した。 また、オリビンースピネル相転移自体のカイネティクスを明らかにするため、Phase Field法と呼ばれる手法でシミュレーションを行った。スラブのような変形場において、塑性ひずみの効果によってオリビンースピネル相転移は遅れるということを明らかにした。これまでの静水圧実験の結果から考えられてきたスラブにおけるオリビンの準安定領域よりも、実際の準安定領域は広いことが本研究より推測される。 当初の予定とは異なるが、沈み込む海洋プレート深部までどれだけの水が浸入し、含水反応が起こるのかという問題は重要だと考え、少量の水を加えたゲルマニウムオリビンの変形実験を行った。フーリエ変換赤外分光法や透過電子顕微鏡分析により、ゲルマニウムアンチゴライトが形成されたことが明らかとなった。更に、力学データからゲルマニウムアンチゴライトはすべりを安定化させることを明らかにした。したがって、スラブ内部でもスラブの変形に伴って少量の水がオリビンと反応し、蛇紋岩を局所的に形成する可能性がある。この内容を論文にまとめ、国際誌(American mineralogist)に投稿、受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
深発地震の発生機構の一つと考えられるオリビンースピネル相転移に対する粒径の効果を明らかにするための研究は、出発物質の合成方法の開発に時間がかかった。初めは先行研究の通りに熱間等方圧プレスを用いて、粒成長した出発物質の合成を試みた。しかしながら、期待したほど粒成長は起きず、合成方法の再考をした。そこで、放電パルス加工と高温電気炉を組み合わせてみたところ、異なる粒径の緻密な出発物質を合成することに成功した。しかしながら、変形実験を開始できるのは令和3年度からとなってしまった。 スラブ内を模擬した、変形場におけるオリビンースピネル相転移のシミュレーションは、プログラムを組むのに時間がかかってしまったが、相転移の速度に対する塑性ひずみの効果を明らかにすることができた。国際誌に投稿するための論文は準備中であるが、研究自体はある程度の進展が見られた。 スラブ内の含水反応(蛇紋岩化)に関する研究は、アナログ物質のゲルマニウムオリビンの変形実験を通して、少量の水でもかんらん石と反応して蛇紋岩ができるということを明らかにした。スラブ内で蛇紋岩化がどれだけ起きているかという問題は、やや深発地震の発生機構の一つと考えられている蛇紋岩の脱水脆性化モデルに大きく影響する。研究は期待通りに進展した。この内容は論文としてまとめられ、国際誌に投稿・受理された。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度、異なる粒径の出発物質を作成することに成功したので、今年度は合成した出発物質を用いて変形実験を行う。深発地震の発生に必要な断層不安定すべりを実験中に検知するためには、断層形成の前駆現象であるクラック形成のタイミングを検知するAcoustic Emission(AE)技術が必要である。このAE技術を東北大学所有のGriggs型固体圧変形試験機に導入するため、まず試験機の改良を行う。その後変形実験を行い、不安定すべりが起きているかをAEの検出によって明らかにする。 先行研究より、オリビン相転移に伴う断層運動の鍵となるのは数百nmオーダーの粒径を持つスピネル相であると考えられている。したがって回収試料の透過電子顕微鏡(TEM)観察は欠かせない。環境が許せば回収試料の組織観察はTEMによる組織観察の専門家のいるドイツのバイロイト大で行う。バイロイト大で行えない場合は国内でTEM観察をし、観察結果をバイロイト大の研究者と議論する。 岩石変形実験と並行して、フェーズフィールド法を用いたオリビン相転移のシミュレーションを既存のワークステーションで行う。アナログ物質のゲルマニウムオリビンでのモデル化は前年度成功したので、今年度は実際の沈み込み帯を模擬してシリケイトオリビンでモデル化を行う。フェーズフィールド法の性質上、相転移に伴う核形成のシミュレーションを行うことができなかったが、結晶の転位密度に関する式を新たに導入することにより、核形成を考慮したオリビン相転移のシミュレーションを行うことを試みる。 得られた結果は学会で発表し、国際雑誌に論文として投稿する。
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Research Products
(5 results)