2020 Fiscal Year Annual Research Report
白血病におけるゲノム異常と翻訳活性化をつなぐ新たながん進化モデルと分子標的薬開発
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20J12563
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
廣内 大成 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL) / ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1) / T細胞受容体(TCR)経路 / 遺伝子翻訳 / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染が原因の難治性造血器腫瘍である。当研究室ではこれまでに、T細胞受容体(TCR)経路に関わるゲノム異常によって導かれうる翻訳の異常活性化が、細胞を爆発的に増殖させるという新たなクローン進化モデルを示唆する知見を得た。本研究では、このモデルの確立及び新たな治療標的となる分子の探索を目的とし、本年度は以下の成果を得た。 1)変異型遺伝子の安定発現細胞株の樹立:ATLクローン進化に重要であることを見出した遺伝子のうち、特に高頻度に検出される遺伝子のゲノム異常に着目し、変異型遺伝子を安定発現するJurkat T細胞株を樹立した。 2)ゲノム異常による遺伝子発現パターンへの影響の解析:ATL検体から得たDNA-seqとRNA-seqデータを統合解析することで、TCR経路に遺伝子変異を有する症例では様々な遺伝子の発現が変化していることを明らかにし、その中に翻訳制御に関わる多くの因子が含まれていることを見出した。 3)ゲノム異常と遺伝子翻訳の活性化を結びつけるメカニズムの検討:TCR経路のシグナル伝達はCa2+シグナルに依存して制御されていることから、Ca2+シグナルがATLにおける「遺伝子ゲノム異常」と「遺伝子翻訳の活性化」を結びつけている可能性を着想した。Ca2+シグナルに注目して遺伝子発現プロファイルを行なった結果、正常CD4+細胞では発現していないCACNA1H遺伝子が、ATL患者の感染細胞において、異常型mRNAバリアントとして異所性に高発現していることを見出した。さらにGene Set Enrichment Analysis (GSEA) 法で解析した結果、異常型CACNA1H高発現ATL症例では遺伝子翻訳の開始や伸長に関連する遺伝子群が高発現していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、ATL症例で高頻度に検出される変異型遺伝子を安定発現する細胞株を樹立することができた。しかし、年度当初の緊急事態宣言発出の影響もあり、安定発現細胞株の樹立に予想異常の時間を要してしまったため、これら遺伝子変異の遺伝子翻訳活性化や細胞増殖への影響については現在解析中である。一方で、ATL検体におけるTCR経路の遺伝子変異パターンと遺伝子発現変化を組み合わせて解析することで、両者の関係を新たに明らかにするデータを得た。加えて、所属研究室がこれまで蓄積してきたHTLV-1キャリア・ATL臨床検体の遺伝子発現プロファイルを詳細に解析することで、Ca2+シグナルがATLにおける遺伝子ゲノム異常と遺伝子翻訳の活性化を結びつける可能性を得た。これらは当初の計画になかった予想外の成果であり、全体としては概ね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
樹立した変異型遺伝子発現細胞株を用いて、変異型遺伝子が細胞内シグナル伝達経路を活性化し、遺伝子の翻訳を活性化させるか、及び細胞の増殖能などの性状を変化させるかについて解析する。シグナル伝達経路については、申請者らが見出していたTAK1-p38-eIF4E経路に特に着目して解析する。加えて、新たに見出した変異型CACNA1H遺伝子が細胞内Ca2+シグナルに与える影響を解析し、Ca2+シグナルを介してTAK1-p38-eIF4E経路や遺伝子翻訳を活性化するかについても解析を行う。また、翻訳経路が、ゲノム異常によって進展したATL 細胞の新たな分子標的となるか否かを患者由来ATL 細胞などのモデルを用いて検証する。ゲノム変異パターンを特定した臨床症例及びモデル細胞の発現データ、翻訳活性化データ等を統合することで、ゲノム異常による翻訳活性化経路における新たな分子標的を探索する。なお、ATL患者の感染細胞に異所性に発現していた変異型CACNA1H遺伝子は、その発現特性からATLに対する新たな分子標的となり得るため、当初の計画に加え、変異型CACNA1H遺伝子の治療標的としての可能性についても検討を行う。
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