2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20J12675
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
行田 康晃 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 正団複体 / Calkin-Wilfツリー |
Outline of Annual Research Achievements |
1つ目に,団複体(cluster complex)の構造に関する研究を行なった.団複体は,団代数における団を極大単体とするような単体複体のことであり,結晶ルート系における一般化アソシアヘドロン(generalized associiahedron)や点付き局面の三角形分割に付随する弧複体(arc complex),あるいは多元環の表現論における台τ傾加群から構成される単体複体の類似・一般化に相当する.とくに,この単体複体の正団複体(positive cluster complex)と呼ばれる部分複体を考えた.この部分複体について,元の団複体の単体集合が有限集合の場合における以下の2つの結果を得た. 1.初期団が変異によって変化したときに,正団複体の面ベクトルの増減量に関する公式を与えた.具体的には,面ベクトルの増減量は,変異を行う団変数を取り除くことで得られる初期団が誘導する団複体の面ベクトル増減量に等しい.特に,この団複体が変異の前後で変化しない場合,変異の前後での正団複体の面ベクトルは変化しない. 2.古典的なルート系(A,B,C,D型)の一般化アソシアヘドロンに対応する団複体について,初期団が特別な場合の正団複体の明示的な記述を行った.また,これを用いてこれらの正団複体の面ベクトルを与える公式を与え,これがKrattenthalerが2006年に与えた公式に一致することを確かめた.
2つ目に,F行列の整数論の文脈における実現を与えた.具体的には,Stern-Brocotツリー,Calkin-Wilfツリーという規約分数を頂点に持つツリーを,Markov型団代数と呼ばれる団代数のfベクトルから点付きトーラスの三角形分割に定まる交点ベクトルを介して構成した.この2つのツリーはそれぞれ団代数のfベクトルの変異と初期変異から双対的な方法で構成される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度得られた研究結果によって,2つの目標が部分的に達成された.
まず1つ目に,研究実施計画にあった,「団複体の性質から団代数の構造を調べていく」ことを概ね実施できた.さらに,研究目標の一つであった「多元環の表現論への,団代数を用いたアプローチ」について進展があった.実際,研究業績における1つ目の業績は,多元環の表現論側で既に得られていた結果の団代数側への拡張となっている.これは,これまで多元環の表現論の言葉で書かれていた諸性質を団代数の言葉で書き換えることができたことを意味する.
また,研究目標であった整数論へのF行列の応用についても進展があった.研究業績における2つ目の業績は,整数論,特にマルコフディオファントス方程式の整数解についての研究において,団代数のF行列の諸定理を介したアプローチが可能であることを示唆するものである.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き上記の研究について考察を行う. 今年度は,多元環側における様々なツールを団代数側に定義することも検討する.例えば,多元環の表現論において「Bongartz補完」と呼ばれている操作を団代数側に導入することなどを考え,多元環の表現論で考えられている様々な性質の団代数版を考えるなどしていく予定である. 整数論について,Stern-BrocotツリーやCalkin-Wilfツリーと密接に関係するマルコフディオファントス方程式の解とF行列の関係性について考察を行う. 他にも,更なるF行列の性質や他分野への応用を考えていく.
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